脳に効く「睡眠学」 宮崎総一郎著

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脳に効く「睡眠学」 宮崎総一郎著

睡眠の足りない状態を「睡眠負債」と呼ぶことがあるようだが、債務ならば返さねばならない。著者は長い研究・臨床歴を持ち、現職は滋賀医科大学で「睡眠学講座」を担当する教授。睡眠時無呼吸症候群の病理診断に携わり、プロジェクト「眠りの森」事業で睡眠学の普及に活躍中だ。

「睡眠学」とは耳慣れない言葉だが、日本学術会議で睡眠研究者が中心となって提唱した新しい研究領域。

次のような調査と試算がある。

3人に1人が「睡眠の問題」を抱え、欠勤や遅刻・早退の頻度が高く、眠気で作業効率は4割低下、交通事故のリスクは問題を抱えてない人の1.4倍の高さ。睡眠障害や寝不足に起因する心筋・脳梗塞の治療費は合併症を含めて1兆6000億円。

児童や学生の不登校や問題行動、ビジネス現場でのミスと低効率の原因にレム睡眠行動障害やナルコレプシー(過眠症とも呼ばれ、場所や状況に関係なく眠ってしまう)が含まれることがあるという。

また効率化もさることながら、単純ミスは一瞬にしてIT社会の危機を招きかねない。不良睡眠は産業社会のリスクとコストアップにつながり、個人の自己責任的対処を超えた社会的課題なのだと本書は問題提起している。「睡眠の問題」はまさに「債務」だ。

しかし、睡眠問題に対する社会の理解は浅く、その解決は、個人の志気や自己管理能力に委ねられているのが現状だ。学校や家庭の管理側が「睡眠」に関する知識を欠き、ガイダンス態勢が不備であるとの指摘があるが、企業の労務管理の場においても同様の状況があるようだ。不眠不休を美徳とするガンバリズムは、見直しの時期を迎えたと言える。          

「睡眠をマネジメントできれば、日本が元気になる」と著者は言う。

第3章「7つの習慣が眠りの質を高める」では、眠りの質を高めて旧来の睡眠に差をつけるための実践法を紹介している。「勉強が記憶に残る眠り方」や「寝坊せずに朝早く起きる方法」を参考に、ハ−ドとソフト両面で「睡眠力」をアップして、ビジネスでの成功に結び付けたいものだ。
(東洋経済HRオンライン編集部:田宮寛之)

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