「ダイバーシティ」の目的は多様性を企業の成長に結びつけること--第3回ダイバーシティ経営大賞・パネルディスカッション

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 苦労して何とか軌道に乗せたのが、MRの短縮勤務制度です。MR(Medical Representative)は医薬情報担当者のことで、各医療機関に訪問して、薬の適正使用情報を提供したり、副作用の情報をいただいたりする広義の営業職です。本社の内勤の短縮勤務は比較的スムーズに導入できましたが、MRは朝と夕方から夜にかけて忙しく、土日勤務もあります。

業界では、「MRの短縮勤務は無理」というのが常識のようになっていました。そこを労働組合も巻き込みながら、実際に短縮勤務をして、結婚や出産をしても勤務が続けられる仕組みを作りました。

2年半のパイロット期間を経て、昨年やっと本格導入しましたが、トップの強いコミットメントとマネジメント層の理解、営業担当の人事の強い思いがあって、何とか定着してきました。制度はあっても使えないことがないよう、いろいろな支援施策や、周囲の啓発活動もかなり時間をかけて行いました。

今後の重要課題は女性リーダーを増やすこと

こうした取り組みの結果、短縮勤務制度の取得者はもちろん、育児休職の取得も男性を含めて増えています。現在は女性社員の3人に1人がワーキングマザーです。課題は、女性の部長、課長職が10%未満と女性リーダーがまだ少ないことです。これでは、重要な経営上の決定に女性が参加できず、女性の考え方が反映できません。これは重要課題として日本だけではなく、全世界で取り組んでいます。

2009年1月からは、全世界で女性活躍推進を加速するために、Global Women’s Council(グローバル女性活躍推進委員会)という取り組みを始めました。日本の役員も1人参加しています。日本でも、Japan Women’s Council(日本女性活躍推進委員会)をスタートして、「意欲とポテンシャルを持っている女性が、いきいきと働いて当社の成長に貢献する」ことをビジョンに活動しています。

また、昨年はJapan Women’s Colleague Resource Groupという部門を超えて選出された女性のリソース・グループも立ち上げました。ウーマンカウンシルのメンバーがロールモデルとなって、さまざまな交流やメンタリングをするほか、ネットワーク作りや、自己啓発の機会を提供したいと考えています。

■日本IBM 多様な人材登用だけでなく、インクルージョン(受容)が大切

梅田(日本IBM) 日本IBMの梅田です。私どもの会社は、本社はニューヨークで170カ国、約40万人が働いています。もうじき創業100周年を迎えますが、人員構成もアメリカ人中心から中国やインド、東ヨーロッパの人間も増えて、大きく変わってきました。

日本IBMは約1万5800名が働いています。ダイバーシティが進んでいるのは外資系だからとか、もともと意欲のある女性や理解のある上司がいるのでしょうと言われるのですが、日本でもすでに70周年を超えており、人員構成も98%が日本人なので、普通の日本の会社と変わらず、結構苦労しています。

IBMがダイバーシティに本格的に取り組み始めたのは、経営危機が大きなきっかけでした。それまでも、イコール・オポチュニティーの考えから福利厚生が手厚く、アメリカの会社にしては縁故採用にも積極的で、親戚一同IBM社員といった同質の考え方をする人が多くいる会社でした。1993年に日本とアメリカが同時に赤字に陥った際に、初めて社外から迎えた経営者であるガースナーが、IBMの生き残り戦略としてダイバーシティを導入しました。

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