古い企業への外形標準課税を強化すべし 冨山和彦氏が描く「起業環境の変え方」

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――開業率の話に戻りますけど、5%から10%に引き上げること、できると思いますか。

それはできるでしょ。数だけで言えば、アベノミクスによる好況で、ストリートファイター系の人の起業件数は増えると思いますよ。担い手と言う意味でも、終身雇用の就職ができる人、さらにはその枠組みで働き続ける人はますます減るわけだから、自然にお店をやるような人が増えていくでしょう。ただストリートファイター系の企業にはベンチャーキャピタルの資金はあまり要らない。ミドルリスク・ミドルリターンの産業領域なので。だから世界レベルの本格ベンチャーキャピタルにとってはおもしろくない。

逆に日本のベンチャーキャピタルの中には、事業をたたむときにはオーナーは株を買い戻す、という条件で出資しているところもあって、実質的にはローンみたいな金の出し方をやっているところも少なくない。ベンチャーキャピタル自身はサラリーマン会社なので、本当のリスクを取れないわけです。だから今後は、欧米型のプロフェッショナルなベンチャーキャピタルが必要で、それと本格テッキーなベンチャービジネスが結びついていく生態系づくりの方が、数よりもよほど大事だと思います。

退出を増やすにはカンフル剤がある

――廃業率のほうはどうですか。

むしろ、廃業率を高めるためにやれることは多い。まず税金。起業して何年間かは別に税金を免除しちゃってもいい。補助金はあまり意味がないから不要。その分、税収が減るけれども、古い会社に対する外形標準課税を強化すればいい。30年、40年も事業をやっていて、ほとんどの中小企業は法人税を払っていない。これだけ人手不足で賃金も上がってきている中で、何十年もやっていてなおかつ赤字の会社を税制上、優遇する意味はない。

僕は起業については、あまり有効なカンフル剤はないと思っているけれども退出についてはあると思う。外形標準課税を強化すれば、「古い赤字会社」というものが存続不能になる。退出すると一時的に困る人も出てくるけれども、その会社のやっていたことに社会的なニーズがあれば、ちゃんと誰かがやるから大丈夫です。少子高齢化による生産労働人口の減少で、これからの日本は慢性的、構造的な人手不足の時代に入るのですから。

――身ぐるみはぐ、という風潮もおかしい。

豪邸はまずいけど、別に普通の70㎡のマンションなんか残してやればいいんですよ。なのに坊主憎けりゃ、の感覚で身ぐるみはごうとする。これでは恐ろしくて起業もできないし、簡単にたたむこともできない。

危険なのは、廃業率は上げたくない、起業率は上げましょうっていう話になってしまうこと。そういうのは絶対無理ですよ。

――代謝が落ちれば便秘になる。

そうそう。退出については、即効薬、すなわち余計なゾンビ延命政策を止め、経営者一族が自己破産しなくても転廃業できるような法制度にして、まず退出してもらう。起業については早めに手を付けて10年、20年、とにかく頑張り続けるということが重要だと思う。

「ローマは一日にして成らず」なんですよ。やっぱり急がば回れ。体質を変えるたえには早めに手を付けて営々とやり続けることが大事です。それが段々じわじわときっと、実を結んでくる。だから、これはコツコツいろんな努力をすればいいのであって、着々とやればいいと思う。くどいようだけれども、テックヘビーなゾーンに関しては政府の役割があるので、これは無視できない。これも着々とやっていく必要がある。こと研究開発に関しては、アメリカだって莫大な公的資金が投入されていることを忘れてはいけません。

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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