1年遅れ、北陸新幹線「敦賀延伸工事」最後の難局 2024年春開業となった敦賀駅周辺を現地ルポ

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北陸新幹線の敦賀延伸が本決まりとなったのは2012年。そのころ政府・与党は、九州新幹線西九州ルートに軌間可変電車(フリーゲージトレイン:FGT)を導入する方針で2011年末に合意していた。

フリーゲージトレイン。結局採用されなかった(編集部撮影)

そこで北陸新幹線も、結びつきが強い関西と北陸間の往来を分断しないよう、FGTの導入が考えられた。ところがFGTは、車軸に入ってしまう微細な傷を解消できなかったことや、保守のコストの課題からJR九州が2017年に採用しないと表明、最後となる試験を経て2018年には開発の先頭に立ってきた国も新幹線への導入を断念した。追ってJR西日本も不採用を発表した。

これによって問題となったのが、敦賀駅の乗り換えであった。既存在来線ホームと新幹線の間には新たな跨線橋が設置されていた(在来線部分を2012年使用開始)が、敦賀駅を通過する流動の8割は特急での往来とあって、とても短時間で乗り換えを完了できるものではない。跨線橋もさりながら、在来線ホーム自体が大人数の乗客であふれ、パンクすることも想像される。

そこで目を付けられたのが、2面4線を載せる幅広い高架の地上階空間だった。容量の十分な動線が確保でき、移動距離も短縮され、既存ホームでは乗り換え完了まで11分を要するとシミュレーションされたものが、5分ですむ。実際、建設中の高架橋内を歩くとあちこちの床と天井に開口部があり、それを尋ねると上下階を結ぶ階段・エスカレーター・エレベーターを設置する箇所であり、その数も新幹線駅の中で随一ではないか、との話だった。

設計変更に2年、急速施工を目指したが…

FGTが断念されたのが2017年夏。その年12月には高架橋自体を発注しなければならなかったので、“追い掛けっこ”のような設計変更作業となった。高架上の新幹線は変わるものではないが、足元に在来線4本を入れるとなれば、荷重条件が全面的に変わる。そのため、地下44mまで打ち込む杭の設計からやり直し、土木工事の本格着手は2018年度となり、その時点で1年遅れた。杭を施工する間に地上の柱の設計を行い、杭を打ち終えた箇所から息を継がずに柱の施工という同時進行となった。一度は確定した設計の中に新たな構造物を加えることは制約が厳しく、全設計を終えるのに2年余りを要した。2019年秋のこととなる。

さらに、東日本大震災後の基準で鉄筋量が非常に多いため、その組み合わせが非常に複雑になっている。そのため鉄筋図を正確に読み取り手戻りなく手順を考えられる熟練工が求められる一方、全国的に職人の取り合いになっていることなどからベテランが不足し、作業の手戻りが増えてしまった。他の多くの工区でも遅延が発生しており、人海戦術や作業の並行化でどうにか取り戻していったものの、規模が破格の敦賀駅においては無理となった。

事業費は、全国的な工事の多さから入札における不落が頻発、発注金額が上昇し、さらに急速施工のため全国から人材・資機材を集めたために膨張した。

次ページ見直し後の計画は現在のところ順調に進行
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