サンデル教授が語る「大卒による無意識の差別」 「努力すれば成功できる」という発想の問題点

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新しいスキルを取得したり、自らの能力を発揮する、あるいは自分の能力を生かして共通善に貢献するといった「内在的な満足」や誇りがモチベーションになるのではないでしょうか。実際、私たちは自分の能力やスキルが向上することで満足感を得ます。その能力を生かして、自分の家族だけでなく、社会全体に貢献できるということは喜びなのです。

私が考える民主主義における条件の平等とは、すべての人が同じ収入を得るということではなく、誰もが尊厳を保ち、尊重されるということです。自分の家族、コニュニティ、共通善に貢献しているということに対するリスペクトがある状況です。

私たちが目指すべきは、それぞれの教育水準や収入にかかわらず、誰もが互いに尊敬できる社会です。社会に貢献している証しが収入ではなく、家族を養うことや、社会、コミュニティに貢献していることなどで測られるのが望ましい状態です。

私たちは社会や共通善に対する貢献度は、収入の高さに反映されると誤解されがちですが、目指したいのは、共通善への貢献度がお金で測られるのではなく、生活のために真面目に働き、社会の発展に貢献できることが尊重される社会です。

社会への貢献度は1つの指標で測るべきではない

――社会への貢献度、あるいは自分の能力やスキルが「お金」という尺度で図られないとしたら、その貢献度は何で測られるようになるのでしょうか。

それを見極めるのが難しいので、結局お金や収入、国にとってはGDPなどに落ち着いてしまうわけです。しかし、GDPが国の幸福度を表すものだと信じている人はいません。

私は『それをお金で買いますか』や『これから「正義」の話をしよう』でも、社会への貢献度を1つの数的指標で測るべきではないと提案しています。お金やGDPは誤解を与える指標で、社会などにおいて何が重要かという議論を遮ってしまう。

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