表玄関からのゴルフ

プロゴルファー/青木 功

 少し前のことなんですが、知人で焼き鳥屋の親父がゴルフに行くって言うんで、「まあ、十分楽しんでこいや」と言ったら、親父が「いつもはどこからでも大胆に攻めすぎだから、明日はピンをデッドに狙わないでワンクラブ短いクラブを持って、手前から謙虚にボギーペースで攻めてみる」と。「親父、結構ゴルフが上手くなったね」、「それが18ホールすべてできたらね」と、最後に一言付け加えたんですが。

結局、5番ホールに行ったら自分との約束を忘れ、ピンの根元を狙ういつものゴルフになってしまい100を切れなかったらしい。ゴルフって前日の計算どおりにはいかないから、面白いんだね。
 でも、その親父の気持ちを十分理解できるんです。多分、1番、2番、3番ホールは、前日に「ピンに届かないクラブを持つ」、そう決めていたので、心の中から気負いが消えていたんだろうね。ご説明するまでもなく、体から力みが消えて体がスムーズに回転、ボールは思いのほか飛んだりして、ピンの手前に置くつもりがピンに絡んだりするものなんです。
 すると、「あれ、今日はいつになく調子がいいな、これだったら次のホールからピンをデッドに狙ってみるか」と、そんな錯覚に陥ります。心に力みがない場合と、欲の塊になったときのショットの差は歴然と表れます。
 ホールを重ねるごとに、今までのいいショットが嘘のようにボールは飛んでくれません。「こんなはずじゃない、こんなはずじゃない」、そう思いながら一日が終わってしまうのです。そんな失敗は、なにもアマチュアゴルファーの専売特許ではありません。現に、プロの私も。その例を挙げますが、思い出すのも恥ずかしい試合だから、1990年頃のある試合と書いておきましょう。

その試合は最終日最終組で回っていたのですが、最終18番ホールに私が来たときは、3アンダーでトップタイ、相手の選手はすでにホールアウト。私が18番のロングホールでバーディを取ると優勝、パーでプレーオフという場面でした。
 私の第3打はグリーン手前から30ヤードのアプローチ、普通に打てばワンピン以内に寄せられる位置です。多くの方々はアプローチの名手と言われる私がピンに絡むようなアプローチで勝負を決める、そう思ってくれたに違いありません。
 実はプレーヤーの私も、ボールを打つ前にそう思ってしまいました。「プレーオフにいくのは面倒だからな」。次のパットでなく、このアプローチで勝負を決めようとした私は、そのボールをザックリ、グリーン手前のバンカーに落としてパーにもならず、優勝を逃がした経験があります。

「ピンの手前に表玄関から攻める」。これを一日守れるプレーヤーは、ゴルフを結構知っている人だと私は思います。

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