"増殖"ハラルレストランが抱えるジレンマ アルコールはご法度、割高な食材も経営圧迫

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月の砂漠も、当初はイスラムのレストランとしてアルコールを提供しない、ハラルレストランを目指していた。厳格なムスリムであれば、同じ部屋にお酒があるだけで嫌悪感を示す人もいるというが、持ち込みにかぎり許可していたのだ。それでも場所柄、メトロポリタンホテルや京王プラザホテルに宿泊している、戒律に比較的寛容なムスリムには愛され、それなりに賑わっていた。

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伝統的なヨルダン料理の1つである「マンサフ」

状況が一変したのは2011年3月11日、東日本大震災以降のことだ。当日に入っていた予約はすべてキャンセルされた。数週間で落ち着くと思っていたが、原発問題も尾を引き、外国人客が激減。その日以降、閑古鳥だけが集まるようになった。

ついに矜持を捨て、店でアルコールを出すことを決意し、それまで働いていたスタッフにも辞めてもらった。「眠れないくらい、とにかく悩みました」。田中真千子店長は、苦渋の決断だったと打ち明ける。

「アルコールを出すことで、来なくなったお客さんもいます」(田中店長)。だが、食事とアルコールの原価率を考えた場合、ただでさえ客数が減っているので、アルコール抜きには経営が成り立たなかったのだ。

ハラル食材はカネがかかる

そもそも、ハラル対応の食材を取りそろえるにはおカネがかかる。日本では手に入らないハーブや前述のジャミードなどは、輸入するしかない。中でも悩ましいのが肉類だ。野菜、魚類は基本的にハラルだが、野菜や魚だけのメニューでは集客には力不足。肉料理が必須なのだが、日本ではハラルミートの入手が困難なのだ。そのうえハラルミートは、そうではない肉に比べると非常に割高となる。

現在は需要量が少ないこともあるが、大量にハラル肉を輸入する業者がいない。自家需要だけならまだしも、割高な肉は町場のレストランを経営するには致命的だ。

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