横浜高島屋に「地元のパン」大量に並ぶ深い理由 横浜発「パンのセレクトショップ」の壮大な狙い

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「それなら、卸先を自分でやろうと考えるようになりました。パン屋にとって利益になるちゃんとした卸先は、パン屋にしかできない。しかし、どのような方法があるか。悶々としていたらある日、アイデアが降りてきたんです」と中島氏は語る。

「パンをたくさん売る条件は3つある。おいしい、種類が多い、手軽に買いに行ける距離に店がある。『おいしい』は人によってあまりにも基準が違うので、考慮に入れるのは諦めました。しかし、種類と立地は何とかなる。横浜中のパン屋が一斉に取り組めば、販売員は1人でいい。誰かが休んでもほかの店のパンがある。種類も膨大になる。そして百貨店なら立地の問題も解決できる。そして、これはエッセンの卸先開拓にもつながる」

そして、行きついたのがパンのセレクトショップだ。自身は今もエッセンの社員なのでパン屋に営業をできないが、矢野氏ならそれができる。パン屋の利益になる道を探していた矢野氏にとっても、それは魅力的な提案だった。そして、2人はハットコネクトで一緒にビジネスを広げ始めたのである。

高島屋だけでなく、東急沿線も押さえた

中島氏は2019年12月中旬、横浜高島屋にセレクトショップの企画書を書いて持ち込んだ。するとすぐ、2020年1月15日から1店舗分20坪弱のスペースに出店が決まった。「ハート・ハット」として4月までの約束で営業を開始し、契約延長し5回移動して1年間営業した。そして横浜高島屋の増床が完成した後、2021年3月にカナガワベーカーズドックを設置したのである。

ここまで順調だったわけではない。高島屋出店はコロナ禍と重なってしまったため、月300万円も赤字が出て、途中で社長は中島氏に交替している。それでも関わる大勢の人たちに迷惑をかけられない、と2人は耐えた。

【2021年4月3日19時10分追記】初出時、出店について誤認がありましたので、お詫びして訂正いたします。

また、東急百貨店にも営業をかけ、前述のとおり、渋谷スクランブルスクエアなどで催事を行った。東急に照準を合わせたのは、東京から横浜に通じる大動脈である東急線を押さえるためだ。

「この手のセレクトショップは、物流の手間がかかるので難しいのですが、表面上まねをしやすそうに見える。そこで、横浜への動線を押さえ、横浜にライバル企業が現れないようにする必要がありました。陣取りゲームみたいに町のパン屋のシェアを取ったら、同じビジネスを同じ場所ではできません」(中島氏)

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