Mattママが語る「野球を強制させない」深い訳 さまざまな選択肢と可能性を息子に与えた

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しかしMattはすごくナーバスになっていて、「野球をやらないことは決めたけど、そう伝えたら僕はもう家を出なきゃいけないんだよね? 野球をやらない人は、この家にはいちゃいけないんだもん」としきりに言うのです。

私が「そんなバカなことあるわけないでしょ? だったらママだって家を出なきゃいけないじゃない」と言ってもMattの不安は消えません。その後どうにかなだめて、夫にも「明日、Mattが野球チームのことで話があるそうよ」と伝えました。

でも翌日になっても、Mattはいっこうに話す気配を見せません。そこで夫がMattの部屋に行き、「野球の返事なんだけどさ……」と切り出した途端、Mattが「やらない! やらないって言ってるじゃん!」と叫んで出てきて、部屋の隣にあったトイレに閉じこもってしまいました。

パニックになってしまった

普段から明るく、どこに出ても物怖じしないMattがパニックになってしまい、私も夫もただただ驚くばかり。どんなに「怒らないから出てきなさい」と言っても、「野球やらないなら、僕はこの家を出ていかないといけないんでしょ?」と言って、もう大泣き。

夫も困ってしまって、「そんなことないから」「野球をやってもやってなくてもMattは大事な家族なんだから大丈夫だよ」と、長い時間、言葉を尽くしました。

あまりに聞かないので、しばらく落ち着かせようと私たちがトイレの前を離れて1時間くらい経ったころでしょうか、Mattがこそこそっとトイレから出てきました。

今、思い返せば笑ってしまうような出来事ですが、当時12歳のMattにしてみれば必死だったんです。子ども心に夫が真摯に野球と向き合う姿を見て育ち、夫がどれだけ野球を愛しているかをわかっていたんですね。それでも、自分が夢中になれるのは、兄のように野球ではないから、頑張れないということもわかっていたんでしょう。

普段の我が家は夫も長男も時間があれば素振りなどの練習を始めるし、いとこが遊びに来ても、夫の関係のお客様が来ても、話題の中心は野球の話。家族でテレビを観ていて、盛り上がるのは甲子園などの野球の試合で、休日に庭でするのはキャッチボールと、何もかもが野球、野球、野球な家でした。

そんな家庭環境にあって、「僕は野球をやらない」と夫に伝えるのは、何事にも強気なMattであっても、幼い彼にとってどれほど勇気のいることだったか。当時はそこまで理解できていませんでしたが、その気持ちを考えるとちょっぴり胸が痛みます。

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