「終電後」のJR、線路の上で何をやっているのか 安全運行に不可欠な深夜のレール交換に密着

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1時30分ごろ、新レールが所定の位置にセットされた。続いて、端部を既存のレールと溶接するための準備が始まる。

作業中も隣の線路を貨物列車が通過する(筆者撮影)

鉄でできたレールは、温度が上がると伸び、逆に冷えると縮む。夏と冬の寒暖差による伸び縮みを考慮して、東海道本線のレールは温度が30度の時に所定となるよう、調整される。この時の気温は2度で、この状態で長さを調整すると、酷暑期にレールが伸びて内部に「軸力」と呼ばれる突っ張る力が発生し、たわんだり変形しやすくなる。そのため、寒い時期の溶接は、レールを温度に応じた力(2度の場合は約52トン)で引っ張りながら行われる。

手際よく機器がセットされ、溶接が始まった。テルミット溶接と呼ばれる方法で、新旧のレール間に砂で鋳型を作り、ルツボで溶かした金属を流し込む。冷えて固まった後に表面を滑らかに整え、超音波探傷機器を使って接合部に問題がないことを確認すれば、完了だ。

作業時間に余裕はない

最後に、新レールをボルトでマクラギに固定してゆく。これが終わったのは、午前3時ごろ。機材を線路外へと運びだし、3人1組で線路内に工具などが残っていないかをチェックする。全員が現場から退出したことを確認して運行指令所に報告し、線路閉鎖が解除されたことを確かめて、午前3時40分にすべての作業が完了した。

この日はとてもスムーズに進んだが、もし予期せぬトラブルがあったら……と考えると、決して時間に余裕があるわけではない。作業員にとっても、そのプレッシャーは相当なものである。例えば、終電の時間が早まれば、それだけ作業時間に余裕が生まれるし、あるいは一晩にこなせる量が増え、夜間作業の日数が減らせる。世間で「働き方改革」が叫ばれているが、こうした保線作業員も休みがとりやすくなり、より働きやすい環境となることだろう。

安全で快適な列車運行のため、今日も大勢が深夜に働いている。少子高齢化によって今後ますます人材確保が難しくなる中、終電の繰り上げは作業員がより安全で健康的に仕事できるための、大きなカギとなるだろう。

伊原 薫 鉄道ライター

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いはら かおる / Kaoru Ihara

大阪府生まれ。京都大学交通政策研究ユニット・都市交通政策技術者。大阪在住の鉄道ライターとして、鉄道雑誌やWebなどで幅広く執筆するほか、講演やテレビ出演・監修なども行う。

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