コロナ禍の日本に見えた国や人の大いなる難題 船橋洋一さんが語る「日本の勝ちすじ」

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須賀:今回のパンデミックへの対応の中で、先進国という概念そのものが崩れて始めている印象を受けています。そして、同時に、今後、世界をリードする国々の顔ぶれの中に、日本はいないのではないかという恐れも感じるんです。日本は、船橋さんがおっしゃるとおり、自国でワクチンを生産できないので、ワクチンが手に入らない国の役に立つということは当然できていませんし、感染症対策に関しても、グローバルに体系的な知を提供することができていません。

船橋:おっしゃることは非常によくわかります。感染症対策としてやってきたことには、どこに課題があり、それをどう克服して、結果は費用対効果も含めてどうだったのかという調査と評価を、データを示して、普遍的な言葉で、世界の知の空間にいち早くインプットし、世界と共有する意思と能力が希薄でした。

最大の敗因は、的確なデータをタイムリーに公にする行政文化の不在にあります。それがコロナ対応でまともな戦略が立てられなかった大きな要因でもあったし、日本の研究者が世界に十分貢献できなかった理由でもありました。日本が今回、十分な知的貢献ができなかったことは、とても残念でしたし、須賀さんがおっしゃったように「日本は先進国なのか?」という疑問を私も感じました。

(撮影:間部 百合)

検証作業における日本特有の困難

須賀:一方で、希望についても申し上げますと、今回、「コロナ臨調」に参加させていただいて、日本には、これだけきちんと検証作業ができる人がいるのだと驚かされたんです。エビデンスベースで丁寧に議論ができる方、物事をロジカルに整理できる方、クリティカルシンキングを高い水準で身に付けていらっしゃる方というのが、実際には本当に多くいらっしゃいますし、仕組みさえ整っていれば、日本人もきちんとした検証作業を行えるのだということを強く感じました。

他方で、悲しかったことは、その検証を政府が十分に受け止められないということです。受け止められないというのは、危機感が足りないことの裏返しだと思うのですが、もっとよくできたのかもしれないとか、次は、同じようにはうまくいかないかもしれないといった、正しい意味での「後悔」や「恐れ」が欠如していることを感じました。

船橋:政府は評価される側なので、検証されることには警戒しますし、正直、嫌がります。関係者にとっては、個々のキャリアに深く関わってくることですから、検証されることは脅威でもあるわけです。とくに、ソーシャルメディア上では、どこの、どいつが、どうなんだと属人的に攻撃する傾向がありますから、検証される側はより身構えるのだと思います。

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