北海道のタブー「JR上下分離論」が再燃する理由 謎の新造ラッセル気動車から北の鉄路を考える

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2019年1月にはJR北海道と国交省鉄道局の間で中長期の経営計画に関する意見交換会が秘密裏に開かれた。その議事録によると、JR北海道は「赤字8線区を維持する仕組みが2031年度以降も継続されれば、国の支援がなくても経営自立が達成できる」としている。ここで言う仕組みとは、上下分離方式にほかならない。

この議論の中で鉄道局は、「近鉄養老線方式のように、まずは数年間を設定して(地元が)支援を行う中で上下分離を考えるべきだ」と示唆したとされる。

養老線方式とは2段階での上下分離のことを指していると思われる。三重県の桑名駅から岐阜県の揖斐駅を結ぶ養老線は不採算路線で、運営する近畿日本鉄道は2007年、列車の運行を担う100%子会社・養老鉄道を設立。レールなどの設備は近鉄が保有したまま、養老鉄道が沿線自治体の財政支援を受けながら運行を続けるスキームを立ち上げた。

JR北海道で相次ぐ若手社員の離職

「通学する高校生をはじめ、住民にとって養老線は絶対に必要な路線」という沿線自治体の声を反映し、2017年には鉄道設備を保有、管理する第三セクター「養老線管理機構」が新設され、鉄道の運営は沿線自治体が主体で行うことになった。

上原局長の国会答弁について道は、「今回のスキームは決して上下分離とは思っていない」と否定するが、JR北海道の元幹部は「路線存続のために上下分離は必要だと思う。それが受け入れられなければ事業範囲を縮小するしかない」と本音を明かす。

2018年に国交省が示したJR北海道の経営改善に向けた監督命令の中で、2023年度に利用状況やコスト削減についての総括的検証が行われ、「事業の抜本的な改善方策についても検討を行う」とされている。つまり、利用改善が図られなければ、鉄道を廃止してバスに転換するということだ。

赤羽一嘉国土交通大臣は、3月の同じ国会審議で「(JR北海道の赤字の8線区は)できるだけ死守する方向で頑張るのが原則」と答弁したが、それは国のみがひたすら支援を続けるという意味ではない。国交省鉄道局幹部は「どのような形態で鉄道を維持するかは地元が決めること。われわれはそれにお付き合いする立場」と話し、8線区の存廃はあくまでも地元の問題とする。

将来への展望が開けないとして、JR北海道の社員は2019年度に165人、2020年度には183人が自己都合で退職した。そのうち9割以上が10~30代の若手だ。国会審議では、JR北海道の給与水準が財政破綻した夕張市役所の職員より低いことも話題になった。

赤字線区の問題を早期に決着させ、自立経営への展望を示さないと人材面からも存続が危うくなっている。北海道で浮いては消える上下分離論だが、道民を巻き込んだ本格的な議論が避けて通れなくなっている。

森 創一郎 東洋経済 記者

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もり そういちろう / Soichiro Mori

1972年東京生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。出版社、雑誌社、フリー記者を経て2006年から北海道放送記者。2020年7月から東洋経済記者。

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