名刺管理Sansan社長が徳島に高専をつくるわけ 20年ぶりの新設高専、狙いは「野武士」の育成

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「『この前人未到のプロジェクトを成功させるには、寺田さんが理事長をやるか白紙に戻すかの二択だ』と言われ、衝撃を受けた。Sansanの経営がある中でやれるだろうかと思っていたが、起業家を育成することはIT業界のためにもなると思い、決心した」(寺田氏)

乗りかかった船とばかりに、Sansanは会社としてもこのプロジェクトを全面支援する。1月にはSansan社内に神山まるごと高専の支援室を設置。社内の1つの事業として位置付け、マーケティングやデザイン、PRなどさまざまな知見を生かして高専づくりを後押しする。

設立資金集めにふるさと納税を活用

開校に向けた時間は長いようで短い。2023年4月に入学する1期生の学生募集は、高専設置が認可された後に始めることができる。2021年10月に文部科学省に設置認可を申請し、最低二度の審議を経て2022年8月末に認可を得ることを想定している。認可申請には資金や校舎、人材が用意されていることが必要で、それをあと半年足らずで準備しなければならない。

高専設立への思いを語る寺田氏(写真:Sansan)

学校設立には概算で15億円の資金が必要とされる。理事長である寺田氏は数億円の私財を投じるが、それだけでは足りない。そこで今回のプロジェクトで活用するのが、ふるさと納税の仕組みだ。

ふるさと納税ではすでに、約7700万円が神山まるごと高専に寄付されている。さらに、企業版ふるさと納税も活用する。企業版ふるさと納税は、国が認定した地方創生プロジェクトに企業が寄付した場合に、法人税や法人住民税などが最大90%税額控除される仕組みだ。

ふるさと納税を活用した学校建設例としては、神山まるごと高専が初めてとなるという。すでに、さくらインターネットやLITALICO、アカツキといったIT企業が活用を決めている。

神山町は企業やサテライトオフィスの誘致を進めているが、人口減少に悩み、高齢化率は49%に達する。もし神山まるごと高専が開校すれば、学生200人(1学年40人)、教職員30人ほどの移住・往来も見込める。これにより、関係人口の増加や神山町への経済効果が期待される。

最初の卒業生が誕生するのは2028年。そのころにはどんな起業家が育っているのか。日本の田舎町に未来のシリコンバレーをつくる3人の挑戦は始まったばかりだ。

菊地 悠人 東洋経済 記者

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きくち ゆうと / Yuto Kikuchi

早稲田大学卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者を経て2017年10月から東洋経済オンライン編集部。2020年7月よりIT・ゲーム業界の担当記者に。

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