なぜ大戸屋は、アジアで大人気なのか 秘訣は、進出先企業との上手な結婚と離婚!?

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未練残さず直営店を売却!その後も「良い関係」に

どういうことか?大戸屋は、事業を軌道に乗せると、なんと株式を全て先述の不動産ディベロッパーであるセントラル社に売却したのである。店舗経営はディベロッパーのセントラルに任せて、完全フランチャイズに切り替えたのだ。事業がうまくいき始めたところで自ら直営事業を手放すというのは、なかなか簡単にできる決断ではない。

しかし、よく考えてみると、非常に合理的だ。大戸屋には大きな売却益が入る。そのうえ、セントラルからは、フランチャイズの手数料(経営指導料など)として、今後も大戸屋側に継続的におカネが入ってくる。いわば、「円満離婚」のあとも、良い友達関係が続いている、と言ってもいい。ともかく、大戸屋としては、売却で得た資金を、今度は他のアジア諸国へ進出するための原資にするのだ。

実際、大戸屋はタイだけでなく、他の国でも同様な形で展開している。台湾では、事業がうまくいくと台湾ファミリーマート(台湾FM)に株式を売却。やはり、他のアジア展開の資金源にした。進出した国々の店舗を立ち上げたチームの人材も、徐々に別の国にシフトする。こうしたモデルで、大戸屋は急速にグローバル展開を進めているのだ。

とはいえ、離婚をするのは結婚よりも難しいかもしれない。 それでも大戸屋が、円満に離婚できているのは、事後フォローと、そのタイミングの良さがあるからだ。

フォローについては、フランチャイズ契約を結び、なんと売却後も1年間、大戸屋として、日本人店長を現場にはり付ける。また、売却を切り出すタイミングも重要だ。大戸屋は、事業が順調に立ち上がり、店舗数が増え、しっかりと収益が出るようになった段階で、あえてパートナーとの関係をいったん前向きに「解消」する。

事業や関係が悪化した後の離婚というのは、ギスギスした非常に難しい条件闘争になりがち。儲かっているときなら、双方とも前向きに歩み出すことができるのだ。

一連のプロセスをあえて、結婚にたとえるなら、良い相手と結婚して、互いに現地で信頼を勝ち取り、そのうえで円満に離婚(売却)。「養育費」など(売却益とフランチャイズフィー)を回収し、新しい相手(国)を探す。飲食チェーンというよりは、投資に近い事業を自社で行っているのだ。ちなみに、タイの場合でも投資額の3倍以上で売却したというから、プロの投資ファンドも顔負けである。

大戸屋HDの海外を統括する濱田寛明専務は、「目先のことを考えるだけなら、直営を続けた方が絶対に儲かる。しかし限られた資金と人材リソースで効率的にグローバル展開を進めるには、まず直営で育てて、FCに売却する考えが必要だ」と語る。

次ページもちろん、現場の苦労は半端ではない
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