前代未聞の事態、マツダが東海ゴムを提訴 リコールの負担で自動車メーカー同士が争う

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自動車の不具合を巡り、原因・責任の究明と対策費用の負担で、自動車メーカーと部品メーカーが対立することはある。自動車が約3万点もの部品で構成され、しかも年々、構成が複雑化しているとあっては当然のことだ。不具合の対策や費用分担は、その都度、メーカーと部品会社の担当者が話し合い、解決するのが普通である。

 仮に問題が大規模になったとしても、幹部レベルの交渉で解決を探る。裁判沙汰に至ることはまずない。ある部品メーカー幹部は、「外国メーカーとの取り引きの場合、状況次第では訴訟も辞さず、と言われることもある。ただそれも交渉戦術。ましてや、相互の信頼関係で成り立っている日系同士で、訴訟は考えられない」と語る。調停や裁判ともなれば、両者の関係が悪化するだけでなく、技術情報や契約内容などの秘密を、裁判所や外部に公開する必要も出てくる。双方のダメージは小さくない。

今後影響ゼロのはずはない

マツダ、東海ゴムの双方とも、「訴訟はこの案件に限った問題で、他の取引関係に影響は与えない。お互いが重要な取引先であることにまったく変わりはない」と口をそろえるが、まるで影響がないと考えるのは難しいだろう。前出の部品メーカー幹部は「部品メーカーの立場では、巨額賠償のような手段に訴えるメーカーとの取り引きは警戒せざるを得なくなる。今後このような動きが増えるのだろうか」と不安を口にする。

 ときに“なれ合い”と批判もされる、自動車メーカーと部品メーカーの密接な協調関係こそが、日本の自動車産業の強みと言われる。このような日本的関係を真っ向から否定するかに見える今回の訴訟騒動。マツダが株主代表訴訟対策で係争する姿勢を見せるのが目的、との声も聞かれるものの、果たして本音はどこにあるのか。いずれにせよ、部品メーカーの間に、これまでにない緊張感をもたらしたことだけは確かだ。

丸山 尚文 東洋経済 記者

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まるやま たかふみ / Takafumi Maruyama

個人向け株式投資雑誌『会社四季報プロ500』編集長。『週刊東洋経済』編集部、「東洋経済オンライン」編集長、通信、自動車業界担当などを経て現職

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