百貨店は地獄から生還できるか、高コスト体質と“訣別”

拡大
縮小

急速な消費冷え込みに苦しんできた百貨店業界。2009年は月次売上高で前年比2ケタ減が続くという地獄を見たが、今年に入り少し様相が変わってきた。

厳しい環境ながらもマイナス幅が縮小、あるいは前年同月比をクリアする店舗が出てきているのだ。百貨店売上高と株価との連動はよく指摘されるところ。「日経平均株価の回復が富裕層の購買意欲の刺激につながっている」(業界関係者)といった面は無視できない。

大都市の百貨店では、重要な顧客となっている中国人観光客も増えている。人気の銀座地区に店舗を構える松屋では、旧正月があった2月の免税売り上げが前年比3倍に。さらに「最近ではドバイからの観光客も来ている」(松屋の秋田正紀社長)。

明るい兆しが見えてきたとはいえ、リーマンショック前の水準に戻るわけではない。業態を超えた競争が続き、百貨店市場の縮小が続くことに変わりはないだろう。その中で、各社が不退転の覚悟で取り組むのが経費削減だ。

百貨店は従業員の平均年齢が高く、小売業の中でも群を抜く高コスト体質。多くの会社が不採算店閉鎖、人員削減、店舗運営の合理化に着手したのは、スリム化が生き残るための必須条件だからだ。

高島屋では3月に増床オープンした大阪店が好調に推移し、主力の横浜店も回復基調にある。10年度に百貨店単体で116億円もの経費削減を計画しており、うち赤字の新宿店だけで32億円。「売り場の配置見直しなどで250人削減するほか、家賃交渉を進める」(鈴木弘治社長)。店舗の減損リスクを回避するうえでも、コスト削減の手を緩めるわけにはいかない。

ローコスト運営の先鞭をつけたJ.フロント リテイリングの奥田務会長兼CEOは、「競合が激しくなる中では、コストを下げることがセーフティネット」と語る。

構造改革を進め、ようやく事業再生のスタート台に立った百貨店各社。東京・銀座や大阪・梅田などの局地戦争はこれからが本番だ。今期は“百貨店衰退論”をどこまで払拭できるだろうか。

(撮影:ヒラオカスタジオ =週刊東洋経済2010年4月24日号)

高橋 志津子 東洋経済 記者

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たかはし しづこ / Shizuko Takahashi

上智大学法学部国際関係法学科卒。東洋経済新報社に入社後は、会社四季報、週刊東洋経済、ムック、東洋経済オンラインなどさまざまな媒体で編集・執筆を手掛ける

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