意識高い系「自分探しの旅」が失敗しがちな理由 「外への扉」と「内なる扉」がつながるサードドア

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著者で主人公のバナヤン氏は、1992年生まれ。『フォーブス』誌「30歳未満の30人」、『ビジネス・インサイダー』誌「30歳未満の最高にパワフルな人物」などに選出され、現在はスピーカーとして世界中を飛び回っている人物だが、本書ではまず、当時18歳の彼が、大学の寮のベッドに寝転がって天井を見つめながら、将来について悶々と悩むシーンからはじまる。

バナヤン氏の祖父母と両親は、ペルシャ系ユダヤ人としてアメリカに渡った移民だ。家族は「アメリカで暮らすために何もかも犠牲にした」とその苦労を語りながら、かわいいバナヤン氏には自分たちの二の舞をさせまいと、医者になって確かな食いぶちを持つよう厳しく教え込み、優秀な大学に進学させている。

バナヤン氏の祖母は、「自分を“見失って”世界中に自分探しの旅に出るような人にはなってほしくない」とはっきり語り、バナヤン氏に重い誓いの言葉を言わせてもいる。

しかし、当のバナヤン氏は、まさに「自分探し」の準備の真っ最中。「自分の人生をどう生きるのか」という自問自答にぶち当たり、著名な経営者や政治家、作家、アーティストなどの書物を読みあさりながら、ちょっぴり「自己啓発系」の若者としてもがいているのである。

一言で片付けてしまわないすごさ

「家族との誓い」という呪縛と、「自分はこれでいいのか」というさまよえる自我とのジレンマに陥って、期末試験が迫っても、なかなか勉強する気力が起きない。けれど、著名人の書物からはすさまじく感化され、「彼らがどうして偉くなれたのか」ということをすごく知りたい。

若き時代のビル・ゲイツは、どうやってマイクロソフトCEOへの第一歩を踏み出したのか? ウエイトレスだったレディー・ガガは、どうやってレコード契約に結びついたのか? スティーブン・スピルバーグは、どうやってハリウッド史上最年少の監督になれたのか?

普通なら「そりゃ、才能があったからでしょ?」と一言で片づけてしまいそうな疑問だが、バナヤン氏がスゴイのは、ここで「そうだ、本人に連絡をとってインタビューしてみよう!」と思いつき、「僕のインタビューには当然、応じてもらえるはず」という強烈な思い込みのもと、なんと実行に移してしまうところだ。

さらにそのうえ、バナヤン氏が「家族との誓いを守り、医者になる人生」という「井戸」から、「大海」へと飛び出すための最初の一歩は、「まずはインタビューに行く軍資金が必要だから、テレビのクイズ番組に出て優勝しよう」という突拍子もない扉を開けることなのである。

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