「不動産目当てのM&A」コロナでじわり広がる訳 保有不動産に重きを置いた企業買収が増加

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買い手の意欲も旺盛だ。「昨春はコロナ禍の影響で取引がストップしたが、不動産市況の高止まりを見て、秋頃から再びM&Aの案件が増えてきた」。不動産開発や既存物件の再生を手がけるトーセイの米田浩康執行役員はそう語る。

同社は2016年以来、資産管理会社など4社を買収し、計約30物件を取得。M&Aによって取得した物件は、収益性を高めたのちに投資家に売却する。2017年にはM&Aの専門部署を設置し、物件取得ルートの1つとして位置づける。

通常の物件売買と比べて不動産M&Aは法人の資産査定に時間を要するうえ、ポートフォリオを丸ごと取得するため流動性の低い物件も一緒に抱えるリスクを伴う。それでも、これまで市場に流通しなかった物件が取引に出る機会でもあり、競争は意外にも激しい。

「まず不動産価格をベースに入札が行われ、優先交渉権を得た企業が詳細を詰めていく。ファンドなどが高値を提示したことで、価格が合わず取得を見送った案件も少なくない」(米田氏)

マッチングサイトも登場

不動産M&Aを専門に取り扱うマッチングサイトも登場した。2020年8月、不動産M&A専門のマッチングサイト「ReeMA(リーマ)」を立ち上げた運営会社リーマの竹口淳社長は「M&A仲介会社が扱わない、資産規模数億円程度の法人のM&Aを支援していきたい」と話す。サイト上ではこれまでに、20組のマッチングが成立した。

最近では資産が膨らんだ個人投資家からも身売りを持ちかけられるという。「2015年の税制改正により相続税が増税されたことから、法人を設立して物件を移す投資家が増えた。それが今、資産を入れ替えようと法人ごと売却する動きが加速している」(竹口氏)。

不動産業界にとって、1~3月は物件取得の好機だ。一般企業が決算を意識し、保有する不動産を売却して含み益を実現させるからだ。

飲食など打撃を受けた業種のオーナーが、本業の赤字の補填のため資産管理会社こと売却するケースもある。ところが、今年は危機対応融資によって資金繰りに窮する企業が少なく、「期待していたほど物件が出てこない」(信託銀行幹部)との声もある。これまであまり認知度が高くなかった不動産M&Aだが、コロナ禍で加速する可能性もある。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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