前国連大使に聞く「SDGsを追い風にする思考法」 起業家の社会課題解決力を成長エンジンに

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星野:SDGsの17のゴールの進捗を計るうえで「指標」は大切ですが、企業がSDGsを実践するうえで注意したいのは、その指標にとらわれすぎないことだとも思います。実際のビジネスは複雑に絡み合っています。そのため、目標〇番だけを推し進めると、目標△番を毀損するといった逆の力が生まれることもあります。

そこで重要になってくるのが、指標をチェックボックスのように潰していくのではなく、自社の事業を取り巻く「エコシステム(生態系)全体」を大胆に俯瞰することだと感じます。自分たちが行っている事業が、何につながり、何に影響を与えるのかを把握することから見えてくることがあります。

そうやって世界全体をも巻き込んだ大きな変革のうねりを、日本発でつくっていけないのかとも考えています。

服部:負があることを理解すれば、その負を軽減する工夫をすることができます。どんなビジネスでも、負をゼロにすることはできません。そこを怖れて二の足を踏むのはもったいない。だからこそ、エコシステムとして捉える視点が必要ですよね。

エコシステムは1社1社で見えている世界が違うはずです。だからこそ、理想的なエコシステムを描くところから、民間企業とベンチャー企業が協業できたら素晴らしいと思います。民間企業から見えている世界と、ベンチャー企業から見えている世界は、同じ産業であっても、驚くほど異なります。

共通言語は「SDGs」だ

星野:なぜそのような違いが生まれるのでしょうか。

服部:ベンチャー企業は、圧倒的に試行錯誤の量が多いからです。実際に事業をはじめてみると、最初は受け入れられないことも多く、もがき苦しむことになります。そこで生活者やユーザーから生の声を聞いていくと、事業の本質が見えていきます。

マーケティングでは「市場が判定する」という言葉で表現されますが、試行錯誤のなかで「この時代に生活者や企業が、本当に必要としていることは何か」に触れることで、その産業のエコシステムのなかで生まれている変化の兆しや歪み、言葉にできないニーズを高く理解することになるのです。

星野:民間企業が有しているビジネスの大局観と、ベンチャー企業が有している解像度の高さを組みあわせる。そうすることで、同じ産業を取り巻く構造を大きくアップデートすることができそうですね。

服部:必ずできると思います。民間企業とベンチャー企業の垣根を越えて、どのような理想的なエコシステムを構成するか。この理想づくりから一緒にできると、両者の協業から生み出される効果は最大化されると感じます。共通言語は、SDGsです。

星野:ベンチャーも民間企業も同じ未来を描くところから始まるのですね。実りある「行動の10年」が生まれることを期待しています。

梅田 悟司 コピーライター・武蔵野大学教授

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うめだ さとし / Satoshi Umeda

1979年生まれ。上智大学大学院理工学研究科修了。広告会社でコピーライターとして活動した後、ベンチャー企業のコミュニケーション戦略の立案を中心とした起業家支援を行う。現在は、武蔵野大学にて、学生起業の支援に加えて、起業家研究を行っている。主な仕事に、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、リクルート「バイトするなら、タウンワーク。」、Surface Laptop 4「すべての、あなたに、ちょうどいい。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション・ディレクターなどがある。著書にシリーズ累計35万部を超える書籍『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社)ほか。

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