『沸騰!図書館』に描かれた自治体の闘い 樋渡啓祐・武雄市長に聞く

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──「図書館道へのこだわり」にたいへんな違和感をお持ちのようですね。

日本人ってすぐ、こうすべしとか「道(どう)」にしちゃうでしょ。あれは嫌なんです。図書館は本を借りる所という道じゃなく、これからの公共施設は多様なサービスを提供する場にならなきゃいけない。いいじゃないですか、自由で。そもそも「利用者」の定義がおかしい。来てくれる人すべてが利用者で、本は借りなくても、極端な話、館内の音楽をボーッと聴きに来るだけでも、スタバでコーヒー飲むだけでも、デートや打ち合わせで寄るだけでも全然いい。ここで本を眺めてると豊かな気持ちになる、自宅の延長みたいと思ってくれればそれでいい。それぞれの居場所を提供するのが、これからの図書館じゃないかと思います。

口では耳当たりのよいことを言って、負担は他者や次世代に付け回す「リベラルもどき」も嫌い。新しい図書館が生んだ経済効果は20億円とはじいていて、今回のプロジェクトでは負の先送りはありません。企業の進出や新築マンションの建設が増え、週末などには市外・県外からも来てくれる。武雄市図書館が一つのブランドとして認知されつつあるんです。オープンから1年経って街に活気も出てきた。何より武雄の人たちがこの図書館を誇りに思ってくれている。それが大きいです。自称“平凡公務員”だった職員が前面に出て飛び回り、図書館スタッフも能動的に動いてくれ、利用者から意見が出るようになった。地方都市にとっては無関心が最大の悪です。否定的意見でも、それは関心があるから。気持ちが変わると物の見方も変わる。武雄市図書館が街づくりのエンジンになりました。

でもそのエンジンは、本当は人なんですよね。人の変化が地方都市にとっては大きなエネルギーになる。いい意味で監視されているから僕らも背筋が伸びる。とりあえず僕らがやれることはやった。これからは市民が決めていくんです。実際に来て使ってくれている方々の意見を聞いて、ドンドン手を加えていきます。

──“批判・炎上お家芸”市長として次は何の沸騰を画策中ですか?

学校教育では、今夏から小学校で花まる学習会(学習塾)のノウハウを導入していきます。モバゲーのDeNAと組んで小学生向けにプログラミング教育も始める。図書館でCCCと組んだように、学校教育は花まる学習会と、プログラミング教育はDeNAと組む。プログラミング力はこれから力になりますからね。

僕の信条としては、誰も歩まない道を歩みたい。エクスプローラーでありたい。僕に対しては賛否両論、否のほうが多いかな。最近よく花もらうんですよ、白い菊の花(笑)。うちの奥さんは不吉だって言うけど、花だと思えばいいわけで。ラッキーラッキー花もらっちゃった、って。

『沸騰!図書館』
角川oneテーマ21 800円+税 221ページ

ひわたし・けいすけ●1969年生まれ。東京大学経済学部卒業後、総務庁(現総務省)入庁。大阪府高槻市市長公室長への出向などを経て、2006年故郷の武雄市長選に出馬し当選。当時の全国最年少市長として注目を浴びる。テレビドラマのロケ誘致をはじめユニークなアイデアで「ベンチャー市長」とも。14年4月に4選。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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