『沸騰!図書館』に描かれた自治体の闘い 樋渡啓祐・武雄市長に聞く

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撮影:梅谷秀司

人口5万、佐賀県武雄市の図書館再生の軌跡。閉鎖的でしゃくし定規、少ない利用者の無言にあぐらをかく旧図書館・市教育委員会を相手に市長が放った切り札は、民間事業者TSUTAYAへの全面運営委託だった。館内にスターバックスも併設、ブック&カフェを地で行く図書館はリニューアルオープン1年で来館者100万人を突破した。

──公立図書館という静寂空間を“沸騰”させてしまったんですね。

僕自身本好きで1日1冊読んでます。ところが市長になった頃の武雄市図書館は平日午後6時閉館、急いで駆け込んでも「閉館です」の門前払い。しかも休館日は年95日。疑問や提案をぶつけても「昔からの決まり」の一点張りでした。市民の税金で成り立つサービスなのに休館日は多い、スタッフも傲慢。市民はそれが普通と思ってたようだけど、僕は違うと思った。利用者のことを考えようと懇々と話し続けました。6年間交渉を続け、2013年4月のリニューアルオープン後は年中無休、閉館も夜9時までに延長しました。

市長着任後、最初の大仕事が市民病院の民間委譲でしたが、次はこの武雄市図書館だと言ったときは、みんな「何なの?」ってシラケてましたよ。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のTSUTAYAと組みたいと言っても「へ?」「は?」って感じ。

──CCCも公立図書館の指定管理者となるのは初めてでした。

そもそも僕がテレビ番組で代官山蔦屋書店を見て、その映像に衝撃を受けたんです。何だこの居心地のよさそうな空間はって。「あそうか、これか」と思いましたよね。木をふんだんに使って間接照明でシームレスで。そうか、これを図書館でやれればいいと。顧客価値を最大視する増田宗昭社長の話も刺さりました。その後偶然お会いしたとき、「私どもの図書館をお願いしたい」と切り出したら、即答で「承りました」と。本当に即答。ビックリしました。

図書館利用者へのTポイント付与について、CCCが押し通したように誤解されるけど、実は僕が言い出して「エエーッ、いいんですか?」って逆に驚かれました。公共施設がTポイント付与しちゃっていいのって。法的に問題はないか、市民に違和感はないかって心配してましたね。でも僕は若い人たちにもっと図書館に来てもらいたかったので。

──2012年にCCCと合意して以降も、民間が長期的視野で運営できるのか、など反論が噴出しました。

それは「民」をバカにしてるんですよ。今や「官」も潰れる時代。民間だから継続性が保てないなんておかしいでしょ。なのに業界関係者が猛反発してきたのは、未知のものに対する恐怖ですね。12、13年と図書館総合展に呼ばれた際はボコボコにされました。満杯の平壌(ピョンヤン)・金日成(キムイルソン)スタジアムで完全アウェーで戦ってるようなもので、身の危険を感じたほど。でもそれだけ硬直した図書館問題の根源に触れてたんでしょうね。

実は図書館の慣習である複本(同じ本を2冊以上所蔵する制度)に対しても僕は異論がありました。この問題は根深くて、本来図書館は本に親しんでもらうのが役割。無料の貸本屋じゃないんです。だけどみんな現金自動支払機ならぬ本自動貸与機みたいに利用する。図書館側も新刊本をそろえざるをえず、大きな図書館は100~200冊単位で仕入れます。そしたら街の書店は潰れますよ。専業作家も出版業界も滅びます。だから最初僕は新刊本は本屋で買ってもらって図書館には置くなと言ったんだけど、それだと持たないということで、じゃあ予備は1冊にしろ、と。リクエストがあった際に限って複本はもう1冊のみ。これは厳守してもらってます。新刊貸し出しの順番待ちをしたくなければ、館内のTSUTAYAのほうで買ってくださいと。民業圧迫はしません。

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