「ビッグ3」も名ばかり、激変の鉄道車両市場 アルストムとシーメンスが陥落、日本勢は見る影なし

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中国南車も同じく政府系で、傘下の青島四方機車がボンバルディアや川崎重工業と提携して高速鉄道車両も数多く製造している。2011年7月に中国で起きた高速鉄道の追突脱線事故を起こしたのも青島四方の車両だったが、原因が車両ではなく信号システムの不備だったことから、受注面ではまったく影響を受けていないという。

中国勢2社は、高速鉄道をはじめとする中国国内の鉄道市場の成長に合わせて規模を拡大してきた。さらに最近では、アフリカやアジアの新興国への展開も積極的だ。「高速鉄道外交は、ピンポン外交、パンダ外交に続く、新たな外交カードになった」と、中国メディアは伝えている。中国政府が自国の鉄道の売り込みに躍起となっている理由は、鉄道技術を供与する代わりに資源を得たいという思惑があるといわれる。

だが、メーカー側の事情としては「両社とも国内需要に対応するため、急速に生産設備を拡大した。工場の稼働率を維持するためには、外国の需要を取り込む必要があったのだろう」と、前出の鉄道メーカー幹部は指摘する。

GEはニッチ市場で健闘

注目すべきは、8位にランクインしたGEである。同社はディーゼル機関車の製造を得意しており、その売り込み先は米国にとどまらず、全世界に及ぶ。「一般的な車両は鉄道会社のニーズに合わせてオーダーメードで製造されるが、GEの機関車は汎用タイプが多く、比較的大量の生産となるため、価格が割安になることが支持されているようだ」(同)。それでいて、ディーゼル機関車というニッチ市場におけるビジネスだけに、利益率も高いという。

9位のウラルヴァゴンザボート(ロシア)と10位のトリニティ(米国)は、いずれも貨車を得意とするメーカーである。「リーマンショック後の景気回復で貨物需要が増えたため、売上高が伸びた」と、SCIは解説している。その煽りを受けて、川崎重工、日立製作所という日本の大手2社は惜しくもトップ10圏外となった。

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日立は英国工場(写真)を拠点に巻き返しを狙う

川崎重工は過去にベスト10入りしていた時期もあったが、このランキングはユーロ換算で行っているため、為替が円安・ユーロ高になってユーロ換算後の数字が従前より小さくなったことが響いたとみられる。

一方の日立は鉄道車両製造だけでなく、保守サービスや運行システムも手掛けている。今後は車両866両の製造と27年半に及ぶ車両保守から成る、総額58億ポンド(約1兆円)の英国IEP(都市間高速鉄道置き換え計画)が上乗せされるため、鉄道事業トータルで見れば、トップ10メーカーに肩を並べる可能性がある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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