社長のいない株主総会、深まる任天堂の苦悩
環境変化に対応遅れ、経営内部の規律にも乱れ

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「現人神」とも形容される宮本専務だが…

任天堂の株主総会は粛々と進んだが、やはり岩田不在の穴は大きかった。任天堂は超縦割り組織を敷いており、担当役員も自分の立場で意見を言うしかない。岩田以外に任天堂全体を俯瞰できる役員が不在だということを、改めて認識させることとなった。

事業面でも、岩田不在の影響はこれから出て来るおそれがある。

「昨年の岩田さんは、北米と欧州に出張しすぎた」(任天堂元幹部)。不振の欧米市場のテコ入れに向けて、岩田は販売子会社である米国シアトルの任天堂オブアメリカや、ドイツの販売子会社に何度も足を運んだ。その結果、欧米拠点では「全体的に社長の指示待ち状態になっている」と前出の同幹部は指摘する。今年の年末商戦は、任天堂が4期ぶりに営業黒字へ復帰できるかを左右する最重要イベントとなる。岩田不在の穴を埋め、回復への道筋が付けられるのか、予断は許さない。

また年末商戦後も、任天堂に一息つく暇などない。2015年には「健康」をテーマにしたハード・ソフト一体型の新規ビジネスを立ち上げると明らかにしている。さらに水面下では、携帯型ゲーム機の次世代機の開発が進む。これら事業を岩田に代わって取りまとめられる役員は、今の任天堂にいるのかどうか疑問符が付く。

「超縦割り組織」敷いた山内前社長

今の状況に陥った背景には、創業家の血を引く前社長、山内溥時代の経営体制が影響している。「山内さんは属人的な組織をうまくコントロールしてきた」と任天堂に詳しいゲームアナリストの平林久和は指摘する。山内は「超縦割り組織」を敷くことで、各事業部のトップを競わせながら能力を引き出す経営手法が特徴だった。今も名残は強く、「事業部間の交流は少ないし、仲がいいとは言いがたい」、と語る任天堂社員もいる。

横の連携が薄い任天堂の気風は、役員個人の職務管掌にも現れている。たとえば株主総会で議長を務めた専務の竹田は、1983年発売の「ファミリーコンピューター」を源流とする据え置き型ゲーム機の開発部門を一貫して歩んできた。昨年、社長の岩田が「ゲームウォッチ」「ゲームボーイ」などの流れを汲む携帯型ゲーム機の開発部門を据え置き型ゲームと統合したことで、竹田は双方のハード開発を管轄するようになったばかりである。

もう1人の専務である宮本は、「スーパーマリオ」「ゼルダの伝説」「ドンキーコング」などを生み出したスーパーゲームクリエイター。ゲーム業界で知らない人はおらず、“現人神”に例えられるほどの超有名人だ。ただ、宮本が任天堂のソフト開発部門を管轄する対象は、自社ソフトに限られる。サードパーティと呼ばれる外部のソフト会社の開発タイトルは業務部が、セカンドパーティと呼ばれる他社のソフト開発会社と一緒に開発した任天堂タイトルは企画開発部が担当する。

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