傲慢で自信過剰な中国は、大きな勘違いをしている--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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トウ小平が生きていれば同じミスは犯さない

中国の行動が変化した理由は二つある。まず、2012年に予定される政権移行に向けて、政権の座を狙う中国の指導者はライバルよりも軟弱に見られたくないと思っている。これがチベットやノーベル賞作家の高行健を弾圧した理由である。

さらに中国経済が転換点に差しかかっている。中国の専門家は、経済成長が8%以下になると雇用が確保できず、社会不安が避けられなくなる主張している。

しかし最近、アメリカの貯蓄率が上昇し始めており、世界的な貿易不均衡という犠牲を払って雇用を創出してきた中国の「輸出主導の成長モデル」に、黄色信号が灯っている。今後もし元切り上げを受け入れるなら、民族主義をなだめるために他の問題で強硬な態度を取る必要が出てくるかもしれない。

二つ目の理由は、最近の中国の行動が傲慢かつ自信過剰になっていることだ。中国は世界不況からいち早く脱し、高成長を達成したことに誇りを持っている。他方、不況を招いたとして米国を非難し、今や外貨準備は2兆ドルを超えるまでになっている。

多くの中国人は、こうした事柄が世界のパワーバランスの変化を示しており、中国は米国を含む他国に今までのように敬意を払う必要はないと信じている。中国の学者たちは米国の衰退に関する本を書いており、その中の一人は米国のパワーのピークは00年であったと主張している。

この自信過剰と国内の不安定さが重なったこと。それが、09年後半から中国の態度が変化した理由だろう。しかしながら、中国は大きな計算違いをしている。

まず、米国は没落してない。過去にも繰り返し米国の没落が唱えられてきた。1957年にソ連が人工衛星スプートニクを打ち上げたとき、71年にニクソン大統領が金とドルの交換を停止したとき、80年代に米国の製造業が日本企業に乗っ取られたと思われたときなど、米国没落論は枚挙にいとまがない。だが、米国の競争力は依然高い。世界経済フォーラムは米国の競争力をスイスに次ぐ2位に位置づけている。一方、中国のランクは30番台にすぎない。

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