静岡リニア批判、隣県・市町と比べ際立つ過激度 「ゴールポスト」動かしてJR東海を封じ込め

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山梨県と長野県はJR東海が行った環境影響評価を問題なしとしたにもかかわらず、静岡県だけが不十分だと批判するのはなぜだろうか。考えられる理由の一つは、山梨県や長野県に比べ、静岡県内における環境影響評価がおろそかになっている可能性だが、JR東海は「どの県でも環境影響評価は同じようにしっかりと行っている」と断言する。

南アルプストンネル山梨工区の現場付近=2015年12月(編集部撮影)

もう一つ考えられる理由は、山梨県と長野県は静岡県に比べると、環境への姿勢が甘いということだ。この見方を山梨、長野両県の担当者は、「静岡県さんと比べて南アルプスの環境問題をおろそかにしているということは絶対にない」(山梨県リニア交通局)、「南アルプスの環境を守りたいという姿勢は静岡県さんと同じ」(長野県リニア整備推進局)と、きっぱりと否定する。

両県はJR東海の環境保全措置を入念にチェックし、工事が環境に与える影響を定期的にモニタリングして、もし課題が生じた場合には、その都度対処するという。10月27日の有識者会議では大東憲二委員(大同大学教授)が、「調査をしながら評価予測し、工事も行い、そのフィードバックを繰り返しながら、最終的に環境に影響の少ないものを作り上げていくのが本来の環境影響評価の考え方だ」と述べている。山梨、長野両県はこの考え方に沿ったものだ。

静岡「市」はどう考えている?

もうひとつ気になる点がある。南アルプスエコパークのうちトンネル工事が行われる周辺エリアは静岡市の管轄だが、実際にエコパークを管理運営する静岡市はJR東海に対する県の厳しい姿勢をどう考えているのだろうか。この疑問を市企画局の担当者にぶつけたところ、直接の回答を避けたものの、代わりにこのように発言した。「市とJR東海は2018年6月にリニアの建設と地域振興に関する基本合意書を締結している」。

JR東海と静岡市は、JR東海が工事車両通過に伴う交通安全の確保や地域振興を目的に約3.7kmのトンネルを新設し、市は道路拡幅などの改良を行うことで合意済み。トンネルは生活道路としての活用も期待され、地元住民が建設を求めていた。JR東海にとっては工事が円滑に進み、市にとってはJR東海の負担でトンネルを造ってもらえるため、双方にメリットがある。

「合意書を締結している」という市の回答は、南アルプスの環境保全は重要な課題ではあることは認識していると同時に、リニア工事は進めるべきという意味に取れる。つまり、山梨県や長野県と同じスタンスと見てよい。

国交省との意見交換会に出席した島田市の染谷市長(記者撮影)

2月21日には、国交省と流域10市町の意見交換会が島田市で開かれた。住民の理解と協力が得られなければ着工しないことが双方の間で確認された。

会談後の記者会見で、染谷絹代・島田市長はトンネル工事の湧水が県外に流れ出ることについて問われると、「全量戻しについては議論の途中にある。まだコメントすべきではない」と答えた。また、北村正平・藤枝市長は、川勝知事のリニア凍結要求について、「もっと適切な言い方があるのではないか」と苦言を呈した。当事者であるはずの流域市町の代表たちの発言は、県よりもはるかに冷静だった。

このような隣県、流域市町の姿勢と比べると、静岡県の発言の過激ぶりが際立つ。リニア開業の遅れは静岡県のせいだと誤解されることを県は心配している。もし、全国に県の主張を正確に知ってほしいのであれば、過剰な発言を慎み、首尾一貫した説明が必要だ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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