英「ワクチン接種」、鉄道会社が担う重要な役割 「大型会場」になった競馬場最寄り駅に停車

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英国では、NHSが正式文書で「特殊なシリンジもしくは注射針を使った場合は、ワクチン1本から6回分取れる」としながらも、「一般のシリンジなどでは5回分しか取れないため、残りは廃棄するよう」と明文化している。

こうした所定の手順により、助手が手際よく注射器にワクチンと希釈用の生理食塩水を入れて、接種できるよう準備を進める。Cさんの実見によると「接種スタッフ10人に対し、助手2人がせっせとワクチンを注射器に詰めている」ということだ。

日本では広範な接種を始めるにあたり、医療従事者確保の問題がさっそく持ち上がっている。英国でも当初からこうした問題に突き当たっており、医師や看護師はもとより、医学部の学生やはたまた獣医まで動員して対応している(英国では、注射の扱いに対するルールがもともと緩い)。接種会場の中には、休憩もほどほどで12時間働いている看護師たちもいるといい、かなりの労働強化が強いられているようだ。

「早く普通の暮らしに戻りたい」

「接種を終えたお年寄りたちは口々に、携わるボランティアたちに感謝の言葉をかけてくれるんです。接種できた人は皆さん嬉しそうに帰っていくのがとても印象的です」。Cさんは、ワクチンセンターでの様子をそう語る。ワクチンが効いて、早く普通の暮らしに戻りたい、と話す人もいるという。

競馬場を会場の1つとして進むワクチンの接種。医師やボランティアの力はもちろん、列車を臨時停車させる鉄道会社の対応も迅速な接種の推進に一役買っているといえる。地元選出議員のひとりは「電車なら環境に優しく、会場を訪れる際に広い車内で十分なソーシャル・ディスタンスが取れる」とその対応を評価している。

本来ならスポーツの観戦客で賑わうはずの「大型接種会場」。スタジアムや競馬場に向かう電車がワクチンの接種者でなく、再び観客を詰め込んで走る日の到来が待たれる。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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