「踊り子」の顔、ファンが愛した185系の名場面 国鉄末期に登場、2021年3月で定期列車から引退

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登場から十数年を経た1995年からは、新前橋電車区の185系200番台を皮切りにリニューアルが始まった。車内がそれまでの転換クロスシートからリクライニングシートに変わったほか、塗装を上毛三山をイメージしたという黄色・グレー・赤の3色のブロックパターンに一新。1999年からは田町電車区所属車も湘南色のブロックパターンに塗装を変更し、雰囲気が大きく変わった。

塗装が黄色・グレー・赤のブロックパターンになった新前橋電車区の185系(筆者撮影)

ユニークなカラーリングとしては、2010年9月に吾妻線の優等列車の愛称である「草津」が50周年を迎えたことを記念した湘南色や、2012年に登場した157系のリバイバル塗装があった。とくに後者は、185系が157系の雰囲気を受け継いだ車両であると感じさせる絶妙な塗装だった。

そして、現在は再び登場時の斜めストライプ塗装となり、最後の時を迎えようとしている。

「踊り子」の車窓から

筆者は国鉄からJRに移行してから、「さよなら運転」や引退間近の車両などを積極的に取材しないようになった。だが、185系「踊り子」は国鉄時代からの歴史ある列車なので惜別の情は強いものがある。そこで別れを惜しむファンが多くなる前に、東京駅から修善寺行きの「踊り子3号」の15号車に乗り込んだ。

なぜ本編成の伊豆急下田行きではなく修善寺行きを選んだかといえば、熱海での分割作業がゆっくり見られること、JR三島駅から駿豆線乗り入れの際、渡り線を行く列車が見られること(伊豆急下田行きでも伊豆急線を渡る光景が見られるが)、それに三島からは富士山が見られることなどである。

東京駅を発車した時点で15号車は筆者ひとりだけ、修善寺行きの編成全体でも20人には及ばない乗客。コロナ禍の平日では仕方がない。「この時期、お客様の少ないのは仕方ありませんね……」と車掌がいう。引退間際になれば別れを惜しむファンたちでにぎわうことであろう。うれしいことに、185系は特急車両ながら窓が開閉できることが「乗り鉄」にはうれしいところ。速度を落として走る駿豆線や伊豆急線内では窓を少し開ければ換気もよく、空いている車内はソーシャルディスタンスも十分だ。

熱海で伊豆急下田行きの10両を切り離し、身軽な5両編成となった修善寺行きの「踊り子」は、三島に到着するとJRから伊豆箱根鉄道の乗務員に交代して、待望の駿豆線への渡り線を行く。ここばかりは最後部の窓を開けてその様子を堪能した。大場付近では宝永火口が口を開けた富士山が車窓後方に望まれ、終着の修善寺駅に到着した。

登場時は国鉄の特急車両としては異色といえた185系も、今や国鉄の名残りをとどめる貴重な車両となった。定期列車以外での運用はまだ続くようだが、まずは40年の活躍に拍手を送りたい。

南 正時 鉄道写真家

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みなみ・まさとき / Masatoki Minami

1946年福井県生まれ。アニメーターの大塚康生氏の影響を受けて、蒸気機関車の撮影に魅了され、鉄道を撮り続ける。71年に独立。新聞や鉄道・旅行雑誌にて撮影・執筆を行う。

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