現在では科学技術基本法のもと、5年ごとに見直される計画によって、時代にあった柔軟な運営がされています。東日本大震災の後は、特にリスクと社会の関係が見直され、リスクと社会のコミュニケーションについても着実に社会に実装するための議論や活動が深まっています。
しかし、「自由な発想で面白いことを追求する研究者たちが集まっている場所」というおおらかさはカゲを潜め、「社会に役立つ何かを生み出す源泉」としてとらえる傾向が強くなり、いわゆる「出口志向」の科学が増えてきたことは事実です。それは米国においては非常に顕著であり、米国にいる友人たちに話を聞くと、研究費を獲得できるかどうかを常に心配しているようです。また、日本においても、近年、ますます役に立つこと、イノベーションの核となることを求められています。
科学がイノベーションの核になることは事実で、多くの革新的成果が科学の研究現場から生まれました。しかしそうした成果の多くは、計画通りに出てくるといったほど単純ではありません。むしろ、予想外のところから、あるいは失敗の中から生まれてくることが多くあります。そうなると、成果を狙った競争的な環境は、よい成果を出すきっかけになることもあれば、マネジメントや新たな予算獲得のための書類書きに時間をとられ、反対に研究に集中ができない環境を作り上げかねません。冷戦時代の米国において、予算が増えすぎたことが原因でよい成果があがらなくなった、という指摘があります。
ビッグサイエンス2.0時代
冷戦崩壊と、ライフサイエンスの急速な発展、特にゲノム科学の進展は目を見張るようなものがあり、新たなビッグサイエンスの時代が来ました。それまでの巨大装置や施設を必要にするものとは異なり、大人数の研究者がネットワークを組むことで研究を進める「ネットワーク型科学」です。そして、ネットワーク型科学は、大人数が関わるものであることから、ビッグサイエンスの中に位置づけられ、ビッグサイエンスという概念も大きく変化を遂げてきました。
いま、ビッグサイエンスの新たな時代、ビッグサイエンス2.0時代が訪れつつあります。大型の予算が巨大施設を必要とする科学のみならず、ネットワーク型科学に投資されはじめています。巨額の予算を必要とするビッグサイエンスをいかに運営するか、あるいは、これから推進するビッグサイエンスをどのようにして選ぶか決めることは、今後の日本の科学、ひいては私たちの社会の在り方を変えていきます。
ログインはこちら