挫折も不調もない?超一流ランナーの発想法 日本長距離界の”皇帝”は超人か、努力の人か

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「ここ2~3年ですけど、あまり調子が悪いと感じたことがないのです。正しくいうと、調子がどうという考え方を持たなくなったのです。カラダが動かないときは、自分の中できちんとした理由がある。たとえば、前日に起伏のある場所を走り過ぎたから、カラダが重いんだなとか。原因がわかっていれば、『調子が悪い』という漠然な言葉で表現しなくて済みます。逆に調子がいいときもなぜいいのか。そこを自分なりに分析していかないと、調子がいいという状態を作り出すことができません。そういうところをよく考えるというか、感じるようにしています」

なぜ成功できたのか。どうして失敗したのか。ビジネスでも、仕事の自己分析は重要だ。サクセスまでの道のりに明確な「理由」が見つかれば、パフォーマンスの“再現性”はグッと高くなる。また、つねに期待を集めるアスリートには、「重圧」という敵も出てくるが、佐藤はこう考えている。

「注目されることでプレッシャーは感じていますが、いつもどおりの状態に持っていければ、日本人選手には『負けない』という自信があります。そういう自信をどうやってつけるのか。それは日々の積み重ねしかないと思います」

日々の仕事をいかにきちんとやっていくのか。小さな「成功体験」の積み重ねが、個々の能力を高めていく。“大きな敵”を前にしても、動じない強いハート(自信)と、研ぎ澄まされた肉体(ビジネス・スキル)が己の武器になるだろう。

佐藤悠基が思い描く“近未来”

トラック、駅伝で“最強”を誇る佐藤には“最速”への野望もある。まずはトラックの日本記録更新だ。佐藤の自己ベストは5000mが13分13秒60で、1万mが27分38秒25。ともに日本歴代3位にランクされており、日本記録までは5000mが0.40秒、1万mが3.16秒と目前に迫っている。

「5000mと1万mは日本記録の更新が具体的に意識できるところまで来ています。長距離種目で好タイムを出すには条件(気象コンディションやレースペースなど)が必要になるので、いつでも出せるような状態を作っておきたいですね。日本記録というよりも5000mは13分10秒切り、1万mは27分30秒切り。日本人としては新たな領域を目指して、悪くても日本記録というふうにしていきたい」

そしてマラソンだ。佐藤は2013年の東京マラソンで1度走っているが、そのときはマラソン練習をほとんどしない状態での出場だった。現在はマラソンへの本格参戦を計画中。日本のエリートランナーは“終着駅”をどこに定めているのだろうか。

「最大の目標ですか? とにかくマラソンで成功したい。ただ日本記録(2時間6分16秒)を更新するのではなく、日本人では無理だろうというレベルまで突き抜けたいですね。トレーニングの仕方についても、日本のやり方、常識を覆したいという気持ちもあります」

佐藤悠基が“異次元”の世界に突入したとき、またこのコラムで紹介したいと思う。

酒井 政人 スポーツライター

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さかい まさと / Masato Sakai

東農大1年時に箱根駅伝10区出場。現在はスポーツライターとして陸上競技・ランニングを中心に執筆中。有限責任事業組合ゴールデンシューズの代表、ランニングクラブ〈Love Run Girls〉のGMも務めている。著書に『箱根駅伝 襷をつなぐドラマ』 (oneテーマ21) がある。

 

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