東レ、帝人「航空機大不況」でも暗くない理由 コロナ直撃が大きな痛手、他用途に活路見出す

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気になる今後の見通しだが、まず航空業界全体の回復ペース自体が鈍そうだ。IATA(国際航空運送協会)が2020年10月に発表した予想では、2021年の航空業界全体の売上高はコロナ影響を受ける前の2019年比で46%減と厳しさが続く。

イギリスの医療調査会社エアフィニティーは2020年12月、各国で国民の大半がワクチンを接種して集団免疫を獲得する時期を予測し、発表している。それによるとアメリカで2021年4月、イギリスが7月、EUが9月、南米が2022年3月、日本が4月、中国が10月、インドが2023年2月で、ロシアはより遅くなる見通しだ。

国際線の本格回復は、少なくとも主要国での集団免疫が確立して以降になりそうだ。さらに、今年に入ってからはワクチンの普及の遅れの懸念が強まっており、予測よりも後ろ倒しになるおそれがある。

そのうえ、回復の遅い航空業界の中でも、素材メーカーの業績回復の順番はかなり後ろのほうになりそうだ。

国内外の航空会社はコロナの影響を受け、巨額赤字に沈む。各社は資金繰りに苦慮し、金融機関からの融資の拡大や政府からの資金援助などに奔走する一方、発注済みの航空機の受領時期を遅らせている。支払時期を先延ばしする目的のほか、保有機数を抑制することで整備点検の費用を抑えるためだ。

新機の需要が本格的に生まれるのは、国際線を含む航空利用の回復によって航空大手各社の財務状況がある程度回復し、受領待ちの完成機がはけてからになる。

具体的な新機需要発注の回復時期について、民間航空機の調査や研究を行う日本航空機開発協会は「航空会社の営業損益が黒字化するレベルまで旅客需要が回復した時期からさらに1年後」とみている。東レや帝人の航空機向け炭素繊維複合材の回復も、かなり先まで待たなければならない。

そもそも、コロナが収束したとしても航空業界を取り巻く状況はコロナ以前の世界とは異なる。コロナで必要に迫られて普及したリモート会議は出張費が削減できるメリットが大きく、このまま定着しそうだ。出張需要の一部はコロナ後も戻らない可能性があり、航空機需要に当然影響する。

他用途向けに活路

とはいえ東レ、帝人とも航空機向けの成長戦略に大きな変更はないようだ。機体の軽量化ニーズはコロナ影響で消えるものではないためだ。東レの岡本昌彦取締役(財務担当)は「炭素繊維複合材料の航空宇宙用途の需要は、中長期的には拡大するとみている」と自信を見せる。

コロナ影響がやむまでは逆風下にある炭素繊維事業で、東レや帝人が注力するのが他用途向けだ。帝人の園部芳久CFO(最高財務責任者)は「炭素繊維の用途を航空機向けから風力発電向けなどに振り向けて需要減に対応する」と話す。

風力発電用のブレード(回転羽根)向け炭素繊維複合材は、世界的な環境対応の高まりを受け、コロナ禍においても両社とも堅調という。耐久性など高い品質が求められる航空機向けと比べると利益率は高くないが、需要は安定的に拡大している。

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