「呪怨」をつくった清水崇の粘り強く快活な人生 群馬生まれの少年が描いた妄想が世界に届いた

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『THE JUON/呪怨』はなんと全米興行収入2週連続1位というすばらしい成績で幕を開けた。もちろん日本の映画監督としては、初の快挙だった。

「当時は今ほどインターネットが盛んじゃなかったですから、アメリカにいるときはあまりピンときてなかったんです。日本に帰ってきたら全米興行収入1位というのが話題になっていて、テレビ各局から取材が来ました」

『THE JUON/呪怨』のヒットを受け、2006年には続編になる『呪怨 パンデミック』が公開されることになった。この作品も清水さんが監督をしている。

その後も呪怨シリーズは清水さん以外の人が監督して『呪怨 白い老女』『呪怨 終わりの始まり』『呪怨 -ザ・ファイナル-』『貞子vs伽椰子』など、たくさんの作品が作られている。

2020年には、Netflixから全6話のドラマ『呪怨:呪いの家』が配信されたのも話題になった。

まるで清水さんがまいた呪いの種が、ひとりでに増殖しているように見える。

「ただ、2006年の『呪怨 パンデミック』以降は正規のシリーズとは別物です。原案者の僕には何の相談もなく作られたものですし、関わってませんから。いつか本来の正統派な新作を僕自身が手がけてお見せしたいですね。

こうやって思い返して見ると、呪怨ばっかりでしたね。合間に細かい短編は撮っていたけど、どれもホラー作品でした。『ちょっと休みたい!!』とは思ったんだけど、しっかり休んで、エンジンかけて頑張る、というのができないんです。メリハリをつけるのが下手なんですよ。面白そうな企画を頼まれたり、思いついたら、ついやりたくなっちゃうんです」

清水さんはその後『輪廻』『ラビット・ホラー』『SOIL』『魔女の宅急便』『9次元からきた男』『ブルーハーツが聴こえる/少年の詩』『こどもつかい』など定期的に作品を世に送り出してきた。

『犬鳴村』がコロナ禍の中で大ヒット

そして2020年2月に公開された『犬鳴村』はコロナ禍という状況にもかかわらず大ヒットになった。

『犬鳴村』は福岡県に実在する旧犬鳴トンネルの先にある犬鳴村の伝説を題材にしたホラー映画だ。

「派手なヒットは久々でしたね。自粛入りかけの時期だったのですが、小中学生がたくさん見てくれ、ホラーなどは普段見ない年配者まで感激してくれたのがヒットの一因でした。レーティングをPG-12(親または保護者の助言がない場合12歳以下は視聴できない)ではなく、G(誰でも視聴できる)にしておいたのが正解でしたね」

ホラー映画の場合、箔をつけるためにわざとPG-12にする場合があるという。だがGにしておいたため、多くの子どもたちが観てくれた。

『犬鳴村』のヒットを受けて、すぐに次回作『樹海村』が製作されることになった。

『樹海村』は2月5日(金)から公開される(写真:東映)

富士の樹海の中にあると言われている樹海村伝説をテーマにしたホラー映画作品だ。今回ももちろんレーティングはGだ。

「『ヒットしたからすぐ次を撮れ!!』

と言われたのはありがたかったですけど、過去の経験上、慌てて作られた続編やシリーズ物は製作陣の浮足立った態勢が反映されてしまいがちで、肝心の作品の質は下がりがちなんです。

『樹海村』より(写真:東映)

今までに嫌というほど、いろいろな人の思惑や浮かれた商業主義の大人たちを見てきましたし、『焦って作ったから失敗したね』と言われるのは嫌でしたから、気合いを入れて撮りました。今回は単なる脅かしシーンは抑えめで、よりドラマ込みで大人にも怖いと思っていただける映画に仕上がっていると思います」

と、清水さんは自信ありげに新作の説明してくれた。

清水さんが監督したホラー作品は本当に怖い。日本人だけではなく世界中の人たちが恐れおののいている。

しかしその恐怖の源泉をたどると、群馬の小学生が眠れない夜に思い描いた“妄想”だ。「小学生の妄想が世界中に広がり、多くの人たちを怯えさせている」。

そう考えると、なんだかとても不思議な心持ちになった。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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