急展開、台湾新幹線「国際入札」打ち切りの裏側 日本の価格は高すぎて、欧州・中国製を導入?

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これにあわてたのが橋本龍太郎、小渕恵三の2人で、何とか逆転発注しなければいけないと親台派の梶山静六、佐藤信二らを台湾にお百度参りさせ、政財界要路に対する工作を開始した。当時を知る台湾政商はその熱気は凄まじいもの立ったと振り返る。

「張栄発、殷琪ばかりか親日派財界人総なめといってもいいほどの活動でした。李登輝さんが最終的に決断したと巷間言われていますが、事実は違う。政府はすでに高鉄に受注させていたのだから、政府はもはや口出しはできない。高鉄が独自に判断した。その決定権者は最高実力者だったエバーグリーンの張栄発しかいません」

その決断は鉄道を車両と通信システムを日本方式、そして軌道・トンネル・橋梁などを欧州方式とするというものであった。

高鉄とJR東海のあつれき

日本企業連合は当時の東海道新幹線の主力だった700系を台湾向け仕様の700Tとして、川崎重工業が19編成、日本車両製造が8編成、そして日立が7編成の計34編成を高鉄に納入。運行システムに関してはJR東海が技術協力をするという陣立てである。この陣立てを日本式と欧州式の“上下分離”が直撃する。上下の下に当たるプラットフォームの長さから700Tには、700系の全編成に整備されている乗務員乗降用扉が設けられず、JR東海がこれでは日本が誇る安全運行の保証はできないとクレーム。また、高鉄がフランスから乗務員を招聘するとJR東海は日本での台湾乗務員研修にノーを出す。

「葛西さんは何様のつもりか知らないけれど、高鉄でフランスから乗務員を招聘するなど主要業務の中心的人物だった米系中国人の解雇を要求しましたよ。殷琪らが日本に視察に行った際には極めて冷淡な対応で、帰台後には台湾人は今でも植民地統治時代の2等国民なのか、どっちが客だったのか分からない、と立腹していました」(同)

「葛西さん」とはJR東海の名誉会長、葛西敬之氏であることは言うまでもない。高鉄にとっては納入業者でもなく、運行システムの協力者に過ぎない葛西氏がなぜそれほど居丈高に台湾に臨めたのか、理解の範疇を越えていたのだろう。

最大の納入業者だった川重は高鉄への納入後、台湾海峡の向こう側で高速鉄道を模索していた中国と車両、技術提供の契約を結ぶ。これに葛西氏は世界一安全な日本の新幹線とその運行システムが中国に盗まれると強硬に反対。JR東海自体が中国との関係を結ばなかったばかりか、川重をN700Sの開発から外してしまう。

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