「時短拒否で過料は効果なし」と言える苦い前例 裁判員制度では無断欠席が多いのに適用されず

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しかも、政府は同じ時期には感染防止策として5人以上での会食を慎むように呼びかけていたはずなのに、よりにもよってGo To トラベル全国一律停止を表明したその日の夜に、菅首相は銀座の高級ステーキ店で、自民党の二階俊博幹事長や、プロ野球ソフトバンクの王貞治球団会長、俳優の杉良太郎氏らと8人の会食に参加していた。ひんしゅくもいいところだ。

やがて、感染者の急増と、11都府県に緊急事態宣言が発出されたことは、言をまたない。

結局、政府の失政が続いた揚げ句に、今度は罰則を設けて、国民を締め付けようとしている。そう受け取られても致し方ない。

裁判員制度と罰則のあり方は違うが…

これで感染拡大が一時的に下火になったからと緊急事態宣言を解き、時短営業の要請が消えても、それで感染が再び増大すると、同じことを繰り返すのだとしたら、感染収束への国家戦略がないのもいいところで、国民の負担が増すばかりだ。

裁判員制度の導入に際しても、“現代の赤紙”と呼ばれて反対する声があった。通知によって一般市民を呼び出し“義務”として国の仕事をさせる、いうなれば徴兵制と同じ構図との批判だ。徴兵制は憲法で禁止された苦役とされ、否定されていても、そもそも憲法には納税と勤労と教育の義務しか無く、国民に苦役を増やしたとして、今も反対の声は根深い。そこに過料という罰則が付いている。

一般市民の司法参加と、疫病から命を守る公衆衛生と防疫措置とでは、同じ過料であっても罰則のあり方はまったく違う。それでも、政府の感染防止対策が国民の信用を裏切り、出口戦略が不透明でそっぽを向かれるようでは、裁判員制度に過料が適用できないように、特別措置法の改正も見かけ倒しで終わってしまう可能性は否定できない。

なにせ、“赤信号、みんなで……”というように、大勢が無視すれば終わってしまう話なのだから。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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