NHKが総務省に「回答」、それでも続く値下げ圧力 2023年度の受信料引き下げで「終わり」ではない

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だが、NHKにとって「2023年度の値下げ」で終わりではない。今後は、受信料の継続的な引き下げを求められそうだ。

総務省の設置した有識者会議は、1月15日に取りまとめた報告書で、NHKの事業収支は年度当初の計画を大幅に上回る黒字の状況が続いてきた結果、繰越剰余金が「増加傾向にある」と指摘(2014年度末の876億円から2019年度末には1280億円に拡大)。こうして積み上がった繰越剰余金を、受信料の引き下げに活用する制度を導入すべきだと提案した。

総務省は2月下旬にも同制度を盛り込んだ放送法改正案を通常国会に提出する見通し。新たな制度では、一定額を超える繰越剰余金を、受信料の引き下げに充当することを義務づける。事業収支の黒字が続いてNHKの繰越剰余金が積み上がれば、それに応じて受信料の引き下げが継続されることになる。

ただし、すぐに実現するという保証はない。NHKが今回示した2021年度予算は、2020年10月に実施された受信料の値下げが通年化することや新型コロナ影響による収入減少などを理由に、事業収支が230億円の赤字になるとの見通しを出している。

継続的なコスト削減は不可避

仮にこうした状況が続けば、繰越剰余金が積み上がらないため、2023年度の値下げ以降は、受信料の引き下げが行われないという可能性もある。実際、前田会長は1月13日の会見で、「(受信料を)恒常的に引き下げられるかどうかは、NHKの収益構造がどうなっているかを見ないと(わからない)」と述べており、24年度以降の値下げ方針は言及を避けた。

そのため、2021年度に悪化するとしている収支が、どこまで改善されていくのかがポイントになる。今回の経営計画では大幅なコスト削減を打ち出している。放送番組や保有メディア、営業経費の整理・削減などを通して、事業支出を2020年度予算の7354億円から2023年度には6800億円へと554億円削減する。2021年度は赤字になるものの、2023年度に80億円の黒字に回復させる計画だ。

2023年度中に値下げが行われると、翌年度の事業収入も低下する。値下げの実現にはコスト削減を継続して収支の黒字を維持することが必要になる。NHKには、向こう3年の経営計画におけるコスト削減に止まらず、今後も継続的に事業運営のムダを見直すことが求められる。総務省の“監視の目”が緩むことはないだろう。

井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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