木村大作監督が語る撮影に対する“覚悟”

俺は風景に詩情がでるまで撮らないんだ

 日本映画史に残る数々の名作を手掛けてきた名カメラマン・木村大作の監督作第2弾となる『春を背負って』が公開されている。
 松山ケンイチ扮する主人公の長嶺亨は、多額の金を動かすトレーダーの仕事にむなしさを覚え、父親・勇夫の死をきっかけに山小屋“菫小屋”を継ぐ決心をする。そんな彼の周りに集まった人々が、美しくも厳しい自然の中で育む、人間の優しさと心の成長を描きだした本作。 “菫小屋”で働く従業員・高澤愛に蒼井優。勇夫の大学の後輩で、“菫小屋”で働きながら亨の成長を見守る多田悟郎に豊川悦司。さらには亨の母親・菫に檀ふみ、亨の亡き父・勇夫には小林薫が出演している。
 本作の撮影は、東京・新宿の高層ビルや、富山県の内山邸のほか、四季を追って立山連峰でも延べ60日間の山岳ロケを敢行。『劔岳 点の記』同様、スタッフ・キャストが実際に山に登って撮影するという、木村監督ならではの演出スタイルは本作でも健在だ。
 今回、歯に衣着せぬコメントで人気を集める木村大作監督に、映画に対する思い、情熱、こだわりなどについて、2回に分けて聞いた。
 

過酷な撮影の先に美しい画面がある

――木村監督のフィルモグラフィーを振り返ると、過酷な状況で撮影された作品が多いですが、なぜそういった過酷な状況を選ぶのでしょうか?

やはり俺が世に出たのは(真冬の八甲田山での過酷な撮影を行った)『八甲田山』(1977年)だからだよ。そこから自分の歴史が始まっている。『八甲田山』がなければ、『劒岳 点の記』も『春を背負って』もやろうとは思わなかった。あれはもう本当に、どうしようもないしんどさだったから。そういうものを経験しているから、「ああいうふうにやればいいんだ」と、やることができる。それが(初監督作品の)『劒岳 点の記』でした。

その間にもカメラマンとして、『復活の日』(1980年)で南極に行ったり、『聖職の碑』(1978年)は木曽駒ヶ岳、中央アルプスを撮ったりもした。自分の映画の歴史はだいたい半島の先か、離れ小島みたいなところが多い。そういうのをあえて選んでいるところもあるからね。確かに山はしんどい。それでも行くのは(美しい画面が撮影できる)保証があるからだ。

――やはり美しい画面を見ているから、それを求めてしまう。

そうだね。でもやっぱり自然が好きなんだろうね。自然の中に入るとホッとして、自分も、和やかになるしさ。

――木村監督はよく、自然を撮影するときに、一瞬を逃してはいけないとおっしゃっています。

どのカットでもそれが難題。自分のイメージした状況があるから。場所は同じでも、雲は動き、霧が上がってくる。一瞬で自然が全部変わるわけ。要するに詩なんですよ。だから(画面に)詩情が出るまで待つ。待ち続ければ、5分ぐらいはそういった瞬間がやって来る。その5分間をじっと待って、その時に一気に撮影をする。『春を背負って』という映画はその繰り返しなんだよ。

――しかし、その5分を待てない人も多いと思うのですが。

そこにこだわりがあるかどうか。自分がイメージした状況を撮影するためだったら、俺は1年間でも待てる。たとえばこの映画では、夕景に豊川さんと松山ケンイチさんが座っている後ろ姿のシーンがあったんだけど、あれは3回目にようやく撮ることができた。1回目、2回目は駄目でした。最初、これはいい夕景になるなと思っていたんだけど、途中から霧で真っ白になってね。そういうときは(カメラを)回したら負け。

その時が来るまで山を下りないぞ、という話だよね。みんな早く山を下りたいから、真剣に「(美しい風景に)なってくれ」と祈っていたよ。俳優さんが出ている山での撮影部分は、そこが最後だったんだけど、あの状況が撮れたので、「みなさんおめでとうございます。これで俳優さんの部分は全部終わりました。カンパーイ!」ってやっていました。そりゃいちばん喜んだのは俳優だよね(笑)。それは要するに最初から覚悟していればいいということ。自分の望む結果にならないかぎり、絶対に撮らないぞ、という決意だよ。

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