ストーリーで共感呼ぶ、ユニリーバのCSR すべてのステークホルダーの意識を変えよ

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この「ストーリーテリング」をCSRやサステナビリティへ応用したものが、「サステナブル・ストーリーテリング」だ。これは2種類に分けられ、1つは、企業内部でCSR・サステナビリティの変革を起こすための準備手段として使う。もう1つが、「メガリスク」など人類が直面する課題に対応するためのストーリーを作り、従業員、消費者、コミュニティなどを含むステークホルダーとの関係を深める活動(エンゲージメント)に使用するというものである。

社内でCSRの変革を起こすストーリー

CSRを企業全体で実施する場合、まずはCSRについての共通認識が前提となる。企業トップや取締役といった経営層、CSR部門、その他部門が「CSR」について話をする際に、共通の概念を思い浮かべ、全員の方向性が合っていることが重要だ。

ところが、社内の各部署でそれぞれが「CSR」という言葉を使っていても、考えている中身が違うことがある。その際多くは、「CSRは寄付活動やボランティアに類するもので、企業の収益とは無関係」という間違った理解がされている。そうした企業のトップや経営層は、CSR関連の活動を取り入れることに消極的で、トップダウンでの実施は難しい。

また、CSR部門以外には、「CSRとは何らかの負担やコストがかかる、自分たちの仕事とは無関係で余計なもの」というイメージを持つ人々もおり、協力が得にくい状況もよくある。実際、「経営陣の理解とコミットメントを得ること」や「社内への浸透」は、日本企業だけでなく、欧米の企業でも苦労している部分である。

こうした状況を打開するために有効なのが、1つめの「社内でCSRの変革を起こすサステナブル・ストーリーテリング」である。まず「ストーリーテリング」自体がどれだけ効果的なのかを示す事例をご紹介する。

ストーリーが巨大な官僚組織を動かした

1996年、世界銀行のアフリカ地域担当理事であったスティーブ・デニング氏は、当時は日陰の部署だったIT部門へ異動になった。世界銀行の中心的な役割がアフリカをはじめとする発展途上国への融資で、まだITの重要性を認識する人も乏しかった頃の話だ。

そうした状況下で彼は、「これからの世界銀行にはナレッジ・マネジメントのシステムが必要だ」と確信し、そのシステム構築の提案を企てた。それでも、通常のプレゼンテーションではまったく耳を傾けてもらえない。そこで、最後の手段として持ち出したのが「ザンビアのマラリア治療法についてのストーリー」だった。

――1995年のある日、アフリカのザンビアの小さな村の医療ワーカーが、マラリアの治療法がわからずに困っていた。結局、その治療法を教えてくれたのは、米国アトランタの疾病対策センターの発したWebサイトだった。

ザンビアの首都ルサカから600キロも離れた田舎で、貴重な情報をインターネットで得ることができたのだ。グローバルな貧困問題を解決する方法について、相当量の情報を蓄積しているはずの世界銀行がここでは、まったく関与できていなかった――。

デニング氏は「世界銀行はこれまでの知識情報を集約し活用することで、さらに社会への貢献ができる。これからは知識共有型組織(ナレッジバンク)が求められている!」と、システム構築の推進を主張した。

このザンビアのストーリーは、世界銀行のトップ・経営層の間で共感を呼び、1996年から2000年までの5年間で、巨大組織に変革を起こした。テニング氏は最終的にナレッジ・マネジメントのシステムを構築し、新たな分野のリーダーとなったのだ。

このように「ストーリーテリング」は、官僚的な巨大組織まで動かす力をもった手法である。「サステナブル・ストーリーテリング」を活用し、「CSRの実施が会社にとってどれほど有益で、将来的に必要なものか」という自社のストーリーを作ることで、社内で変革を起こせるのである。

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