「技術革新を"翻訳"で促す」東工大の意外な研究 科学とアートの融合を可能にする新しい学問

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「翻訳学」を研究する東京工業大学の野原佳代子教授(撮影:益田美樹)
サイエンスとアート。両極に位置していそうな、この2つが出合うと何が起きるのか。境界線を越えて新たな知は生まれるのか。双方をつなぎ、議論を促進する触媒になりうるのが「翻訳学」だ。東京工業大学環境・社会理工学院教授の野原佳代子氏(翻訳学、サイエンス&アート)は、そうした手法で新たな知を創出する最前線にいる。目指すはイノベーションが生まれる過程のモデル化。「ニッポンのすごい研究者」の第6回は「サイエンス×アート」の可能性に触れる。

言語を訳すだけが翻訳ではない

――「翻訳」という言葉は文字通り、一般的には「本や文章を翻訳する」というイメージで使われます。それを学問の名前としている翻訳学とは、どんな研究なのでしょうか。

英語にすると、「トランスレーション・スタディーズ」ですね。欧米など多言語が共存する地域を中心に発達しました。日本では学問としては始まってまだ日が浅いです。

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大きく分けると、翻訳には「言語間」「言語内」「記号間」という3つのがあると言われています。「言語間」はいわゆる普通の翻訳です。例えば、英語から日本語で”Hello”を「こんにちは」にする。

「言語内」というのは、「こんにちは」の場合、コンビニの店員さんだったら「いらっしゃいませ」となり、客は返事をしない。つまり同じ言語、この場合は日本語の中でいろいろ解釈されていくのが言語内翻訳です。

言語を越える「記号間」もあります。非常口は英語で”EXIT”ですが、それをピクトグラムにして表すことがたくさんある。“非常口”や”EXIT”と表記していない場合でも、意味がわかりますよね? こういう関係を「記号間翻訳」と言います。この3つで大概のコミュニケーションはカバーできる。非常に守備範囲の広い学問なんです。

翻訳学のカバー範囲は大きく3つある(画像:野原佳代子氏提供、出所:R. Jakobson 1959 On Linguistic Aspects of Translation", in Brower, Reuben A. (ed.) On Translation. Cambridge MA: Harvard University Press.)
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