(第9回)円高犬は吠えなかった、それこそが重要だった

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(第9回)円高犬は吠えなかった、それこそが重要だった

シャーロック・ホームズの「白銀号事件」(Silver Blaze)は、競走馬が失踪し、調教師が惨殺された事件である。

現場を検証したホームズは、担当のグレゴリー警部に、「あの晩の犬の不思議な行動に注意すべきです」と言う。「何も不思議なことはありませんでしたよ。犬が激しく吠えることもなかった」という答えに、「それが不思議なことなのです」とホームズは言う。

厩舎に闖入者があれば、犬は吠えるはずだからだ。吠えなかったのは、馬を連れ出したのは、犬がよく知っている人物だったことを意味する(実際、そのとおりだった)。

何でこんな話を持ち出したのかと言えば、「あってしかるべきものがない」のは、しばしば極めて重要だからだ。もう一つ例を挙げよう。

冷戦時代、西側のクレムリン・ウオッチャーは、革命記念日のレーニン廟の上に並ぶ共産党幹部の中に「誰がいないか」を探した。また、プラウダ紙上に「誰の名がないか」を探した。

いるべき人がいれば、大きな事件は起きていない。しかし、いてしかるべき人がいなければ、失脚した可能性が高い。それは、クレムリン内部で権力闘争が起きていることを意味するのだ。

ここで議論している金融・経済危機についても、同じことが言える。「あるべきものがない」のは、大変重要なのである。

アメリカ国内で増加した支出は輸入で賄われたこと、日本や中国が黒字を還流させたため、アメリカの経常収支赤字が拡大し続けたことをこれまで見てきた。

ところで、この過程で「あってしかるべきものがなかった」のである。それは、ドル安・円高が生じなかったことだ。

話を簡単にするために、日米関係だけを取り上げよう。

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