サックス氏の貧困撲滅策が失敗した理由

私たちはプロジェクトへの投資を見送った

ビル・ゲイツ氏はジェフリー/サックス氏の取り組みを批判している(写真:AP/アフロ)

ジェフリー・サックス氏は高い知性、情熱、説得力を持ち、自らの才能を注いで世界の最貧困層のために声を上げている。

米『ヴァニティ・フェア』誌記者のニナ・ムンク氏は、著書『The Idealist』で、サックス氏が率いる「ミレニアム・ビレッジ・プロジェクト」を微妙なニュアンスで描写している。同プロジェクトは、的を絞った大規模援助により、アフリカの村々の貧困撲滅の可能性を示すことを目的とした実証プロジェクトだ。ムンク氏は同著のための調査に6年の歳月をかけ、2カ所のビレッジで長期間生活した。彼女はサックス氏のプロジェクトの重要性を認めている。

ただ、同著によると、一部のミレニアム・ビレッジでは、住民の健康状態や収入に改善が見られるが、ムンク氏が訪れたケニアとウガンダの2カ所のビレッジでは、今のところサックス氏の見通しに沿っていないと、彼女は結論づけている。

サックス氏は、プロジェクトの支援要請のためにビル&メリンダ・ゲイツ財団を訪れたことがある。彼は、医療、教育、農業支援を一斉に集中的に投下する村をいくつか選んでいた。彼の仮説は、各分野の支援介入は強い相乗作用をもたらすので、好循環が生み出され、結果的に村の貧困を撲滅できるというものだった。

私と同僚は、サックス氏のアプローチにいくつかの懸念を抱いた。そこで、彼の仮説を確認するため次のような質問をした。進歩が目に見える形になるにはどの程度の時間がかかると仮定しているのか、同プロジェクトへの政府負担はどれくらいなのか、発展度の測定はどの程度実行可能なのかなど。結局、私たちはプロジェクトへの直接投資を見送った。

では、いったいどこに狂いが生じたのか。1つには、サックス氏が選択した村が、干ばつから政情不安に至るまで、あらゆる種類の問題に直面したことがある。もう1つは、プロジェクトが「フィールド・オブ・ドリームス」的な発想から始まった点だ。プロジェクトの指導者らは農民たちに、より豊かな国で需要がある農作物への転作を促した。良質の肥料や種を使って高い収穫量を上げられるようになったが、プロジェクトはこうした作物を流通させる市場開発への投資をしなかった。ムンク氏によれば、輸送費が高すぎてパイナップルは輸出できず、バナナ粉にもほとんど買い手がつかなかった。

同プロジェクトには、資金が尽きた後に成功を維持できる経済モデルがなかった。医療、インフラ、教育などの支援は、時間をかけて慎重に遂行されれば意味を成す。が、サックス氏が国家予算を徹底的に調べなかった点と、さらに多額の支援金を得るための追加課税の実行を政府に説得しなかったことは驚きだ。

一方、サックス氏の多くのアイデアが正しかったことも証明されている。たとえば、ムンク氏は2007年に起きた、殺虫剤処理済み蚊帳の無料配布を拒否していた国際援助提供者とサックス氏の間の衝突を詳細に記述している。この援助者は、人々に少額で蚊帳を販売するアプローチを支持していたが、サックス氏が反対し破談に。が、この件以降、市場モデルよりも無料モデルのほうが、蚊帳の幅広い配布と、大規模なマラリアの削減を実現できることがわかっている。

最後に、貧困撲滅のために闘う人々が、この本の内容によって投資をやめないことを望む。ベンチャー投資の世界では、30%の成功率はすばらしい成果だ。貧困や病気との闘いなどの困難な事柄に臨む際、失敗を恐れていては何一つ有意義なことを実現できない。

自らのアイデアと評判を危険にさらしてまでこのプロジェクトに懸けたサックス氏を私は称賛する。彼は自らの理論を実行に移すため、腕まくりをして困難な事柄に取り組むタイプだ。サックス氏がより確固たるアイデアとアプローチを持って舞い戻ってくると確信している。

週刊東洋経済2014年6月14日号<9日発売>「グローバルアイ」)

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