その1つ目の方法は、プロの世界である以上、何よりも結果を出すことだった。他の監督なら2位でも良いかもしれない。しかし「素人と見られているザック」は、1位にならない限り、この先はない。自分の経験に基づいて指導する監督が多い中で、逆にザックは誰よりもサッカーの研究を重ねた。飛行機に乗るお金がなく、イタリアからスペインまで車で行っては試合を「研究」したと言う。当時は先進的だったゾーンDF、その後は3バックというシステムを取り入れ、前例にとらわれない「勝利への試行錯誤」を続けた。結果を出すために、毎年が挑戦だった。
もう1つザックが選手から信頼を得た方法は、「郷に入れば、郷に従う」という、徹底した現場主義だった。自分が監督だからと押し付けることはせず、選手のみならず倉庫係のスタッフにまで同じように自ら話しかけ、距離を縮めチームを理解しようとした。全員を知るためにザックはグラウンドに誰よりも最初に来て誰よりも最後に帰った。そんな監督は、後にも先にもザックだけだったという。
前例にとらわれず成果を出すために全力を尽くし、郷に入れば郷に従う。その想いは、今も変わらない。現在も、W杯の成果を見据え、「自分は半分は日本人だ」と語る今のザックの姿勢につながっている。
「日本代表」とは、「たらこスパゲッティ」である
彼は、日本代表監督就任時に、こういったという。「私は、『バランス』のとれた日本代表チームを創る」と。就任以来、彼はまさに終始一貫して『バランス』を大切にしているのだが、その本当の意味を例えた言葉こそが実は、「たらこスパゲッティ」なのである。
たらこスパゲッティ。この未知の料理にイタリア人のザックが遭遇したとき、彼はびっくりしたという。おそるおそる食べてみると、「和」と「イタリアン」がミックスしたその完成度の高さに、再度驚愕したという。
ザックは「同じ選手はいないのだから、他のチームを決して真似るな」と言う。つまり、日本にはブラジルのネイマールもアルゼンチンのメッシもいない。ではどうするか。それが、たらことスパゲッティなのだ。たらこ・のりといった日本の食材の良さを最大限活かしながら、イタリアのスパゲッティと混ぜ合わせ、新しい価値を創る。
プレイヤーは一人一人違う。ないものねだりをしても仕方がない。大事なのは過去の成功というイタリア料理に固執するのではなく、今ある和の素材をミックスしながら、現実に合うように新しく創造していくことだ。
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