日本企業は「現場のインド」を知らない インフォブリッジグループ 繁田奈歩代表(上)

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インドの物流はわかりやすい

繁田:たとえば、スズキ自動車やホンダの2輪は成功事例だと思います。でもこの2社がケーススタディになるかというと、そうではない。30年近く前のまだ何もないときに出て行った先行者メリットと、30年間近くの歴史。このふたつは、もはやまねできないレベルに行ってしまっています。

それに対してユニ・チャームは、たったの5年くらいで400~500都市に進出して、今、紙おむつではパンパースの次くらいまでシェアを伸ばしていると聞きます。その観点からいうと、十分、成功していると思います。ただ彼らのタイとかインドネシアでの成長がすごすぎるから、そっちが社内的な目標ラインになってしまうと、「インドではまだ成功していない」という位置づけになるかもしれません。でも5年でシェアナンバー2になったなんて、成功事例のひとつと言えるのではないでしょうか。

三宅:家電業界だといかがですか?

繁田:ダイキンやソニーでしょうか。インドでは世界のソニーブランドが健在で、たとえばテレビでも40インチ以上になると、ソニーのシェアは上がるのです。スマートフォンでもソニーの商品は、インドではプレミアムセグメントなので、そこではいいポジションにいると思います。

ポジションという観点からは、家電ではないですが、赤ちゃん用品のピジョンを取り上げたいです。彼らはインドの全人口の12億人をターゲットにするのではなくて、その中の1億人をターゲットにするというところからスタートしているようですが、1億人をターゲットにしたときの事業の進め方や販売網の作り方と、5億人をターゲットにしたときの進め方は違いますから、戦略的にはたいへん参考になるはずです。

三宅:よく考えて、本当にやろうと思えば、うまく行き始めるわけですね。

繁田:そうですね。インドだからうまくいかないということは、実は全然ない。インドだからうまくいかないというなら、中国だってうまくいかないはずですよね。

よく「消費財は販売網づくりが大変だ」と言われるのですが、インドネシアのように、国土のほとんどが島みたいな国に比べれば、インドは陸続きですから、物流はその分やりやすいと思いますよ。それなのに「インドは販売店網づくりが難しい」とか、「大型の小売りチェーン店がないから、なかなか入り込んでいけない」とか言われます。でも昔の中国がまさにそうだったわけで、逆に整備され始めると、それはそれで入り込んでいけなかったりするわけです(笑)。

日系企業からすると、「われわれがモノを売るとしたら、やっぱりイトーヨーカドーとかイオンみたいな大きい店じゃないと売ってはいけない」「パパママストアに商品を卸すのは無理だ」と思っていらっしゃる企業もありますが、そういう固定概念はあまりインドでは意味がないので、やればいいのに……と思います。

三宅:なるほど。やはり現地の目線で見ないとわからないことは多いですね。次回はなぜ繁田さんがインドと縁を持つようになったのか、インドで会社を立ち上げたいきさつなどを伺おうと思います。

(構成:長山清子、撮影:梅谷秀司)

※ 後編は6月18日に掲載します

三宅 孝之 ドリームインキュベータ執行役員

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みやけ たかゆき

京都大学工学部卒業、京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修了(工学修士)。経済産業省、A.T. カーニー株式会社を経てDIに参加。経済産業省では、ベンチャービジネスの制度設計、国際エネルギー政策立案に深く関わった他、情報通信、貿易、環境リサイクル、エネルギー、消費者取引、技術政策など幅広い政策立案の省内統括、法令策定に従事。DIでは、産業プロデュース事業を統括し、環境エネルギー、まちづくり、医療などを始めとする様々な新しいフィールドの戦略策定及びプロデュースを実施。また、個別プロジェクトにおいても、メーカー、IT/通信、金融、エンタメ、流通、サービスなど幅広いクライアントに対して、新規事業立案・実行支援、マーケティング戦略、マネジメント体制構築など成長を主とするテーマに関わっている。

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