(第8回)アメリカの赤字拡大は資本取引自由化のため

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 ただし、円キャリーのかなりの部分が証券化商品に向かった可能性がある。そうであれば、日本から流出した資金がモーゲッジローンの原資となり、住宅価格バブルを引き起こしたと考えることができるわけだ。つまり、日本はアメリカの住宅価格バブルに直接的な意味で加担していたことになる(これについては、後で再び述べる)。

ところで、資本取引が自由になったといっても、アメリカに投資しなければならない必然性はない。仮に日本や中国が黒字をアメリカに還流させなければ、どうなっていただろう。やはりドル安が生じて、アメリカの経常収支赤字は縮小したはずだ。

だから、これまで述べてきたことは、「80年代以降の世界で必然的に起きた」ことではない。日本や中国の選択の結果起きたことだといえる。つまり、アメリカにおけるバブルは、発展の過程からして、日本が絡んでいた。というより、日本は主要なアクターだった。

「金融危機はアメリカが起こした」という見方が強いのだが、決してそうではない。日本側の事情は重要なかかわりをもっていたのだ。

【関連データへのリンク】
アメリカ国際収支統計(対世界) 
アメリカ国際収支統計(対日本)
アメリカ国際収支統計(対中国) 


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。


(週刊東洋経済2010年3月27日号 写真:今井康一)
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