東京・谷中のぼろアパートが人気スポットに 壊して建てる時代は終わり! ソフトの力で再生する

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すごい建物でなくても、ちょっとしたことが価値になる

さらに宮崎さんは以下のようにも話しています。

「実は築60年のアパートって、別に歴史的にすごい建物でも何でもないんですよね。だからあまり古民家って呼ばれたくないのです。誤解を生んでしまうし、そう言われてしまうことで、ターゲットを限ってしまうことも問題だと思いますし」

宮崎さんはこう言いますが、やはりこの場所が長い時間を持つ空間であることは、間違いなく価値となっています。別に歴史的な建物でなくても、私たちは十分、ノスタルジー(懐かしさ)を感じることができます。

そしてそれ以上に、運営者である宮崎さんがここで長く過ごしてきたという、建物に対する愛情をそこかしこに感じるのです。これは、場所の価値としてなかなか見えづらいものではありますが、おのずとしみ出してくるもののように感じます。

以前の萩荘時代の看板も店内に残されている

結果として、「HAGISO」は、オープンしてからわずか1年間で1万5000人のお客様が訪れる、街歩きに人気の東京・谷中でも有数のランドマーク的存在になってきています。もちろん、これは谷中という街の魅力と「HAGISO」の魅力がうまくリンクしたということもあるでしょう。ただ、この建物が3年前には取り壊されようとしていたということが示すように、私たちは足元に眠る価値にまだ気づいていないケースがあります。

「HAGISO」外観

何でもきれいにし、新しいものに建て直し、合理的な空間を作ることが正しいと思いがちではないでしょうか? 江戸時代から続く古民家でなくても、私たちは十分、その空間が持つ価値を感じることができるのです。

モノにあふれた時代、だけでなく、今は建物にあふれた時代でもあります。そして、どの街にも、その街の思い出とどこかかけ離れた建築物があるはずです。

しかし、大事なことは、更地にして何か新しいものを建てるばかりではなく、今あるものを生かすという発想です。資源が限られている中で、建てておしまいという時代はすでに終わりを迎えています。モノがあふれた時代だからこそ、今ある資源の価値を、ソフトの力で変えていくことが求められているのです。

【お知らせ】
マザーハウスでは本連載のテーマである「モノにあふれた時代のモノ買い方、売り方」に合わせて、マザーハウスカレッジという、みなさんで議論する場を設けています。次回、6月25日(水)には、「代官山 蔦屋書店は、ネットを超えた本屋さん」の続きとして、下北沢にある書店「B&B」で「本屋の逆襲。小さな本屋が街の繋がりをつくる。」というテーマで議論を行います。詳しくはこちらをご参照ください。
山崎 大祐 マザーハウス 副社長

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やまざき だいすけ / Daisuke Yamazaki

1980年東京生まれ。高校時代は物理学者を目指していたが、幼少期の記者への夢を捨てられず、1999年、慶応義塾大学総合政策学部に進学。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年、大学卒業後、 ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。副社長として、マーケティング・生産の両サイドを管理。1年の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。

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