求人倍率30倍「韓国発アパレル」驚きの採用事情 販売員生存のカギはSNSの発信力と表現力?

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新型コロナウイルスの感染拡大以降、アダストリアの展開する既存ブランドでも店舗への来客は激減したが、自社ECでは「スタッフボード」を経由して商品が買われるケースが急増した。これは各店舗の販売員が個人のスタイリングを投稿するという、アダストリアが2018年から運用しているコンテンツだ。

顧客ニーズを的確に捉えた商品説明や写真の撮影が上手な販売員はフォロワー数も多い傾向にある。こうしたコロナ禍でのデジタル活用の手応えも、エーランドでの新しい販売スタイルの実践を後押しした。

コロナ禍でアパレル各社が採用を縮小する中でも、デジタルに関するスキルを持った人材は業界全体でニーズが高まっている。パーソルキャリアが運営するアパレル・ファッション業界専門の転職支援サービス「クリーデンス」の事業責任者を務める河崎達哉氏は、次のように指摘する。

「SNSの活用に長けていたりインフルエンサー的な要素を持っていたりする、デジタルの販売手法に強みがある人材のニーズは高まっている。具体的な応募要件にSNSの運用を加えるアパレルも増えている」

パーソルキャリアによると、新型コロナの感染が拡大した今年3月以降、アパレル企業の求人数は激減。6月頃に底打ちしたものの、11月時点でも新型コロナの感染拡大前の水準には回復していないという。

職種別にみると、大幅に求人数が減ったのが販売員やパタンナーだ。特に販売員は、深刻な人手不足を背景に売り手市場が続いていたが、コロナ禍で大量閉店や新規出店抑制を決める企業が一気に増えたため状況が一変した。

EC関連の求人は引き合いが強い

求人が底堅い職種もある。コロナ禍で急速に利用が伸びているEC関連は引き合いが強く、サイト運営にかかわるエンジニアなどの人材の求人数は3月以降も唯一堅調に推移する。

ただ、エンジニアやデータサイエンティストなどのIT人材は業界を問わず求人倍率が高く、給与水準が高騰する中で多くのアパレル企業は獲得に四苦八苦している。マーチャンダイザー(商品の企画・販売管理などを行う職種)やデザイナーも、求人数の減少幅は比較的小さい。

河崎氏は「EC強化や在庫管理の効率化など、アパレル各社が抱えている課題感が足元の採用動向に表れている」と分析する。

これまで店頭接客のみに対応してきたアパレル販売員も、コロナ禍で来客が減ったことにより生まれた時間を活用して、ライブ配信での商品紹介などに挑戦するケースが増え始めた。

アダストリアの北村取締役は「ITリテラシーの高さが必須なわけではないが、販売は裏方ではなく表に立つ仕事。店頭でもデジタル上でも、恥ずかしがらずに自分を表現できて、顧客ニーズに合った提案ができるかが重要だ」と話す。

実店舗とECの垣根がなくなりつつあるアパレル業界では、販売員をはじめ働き手の意識の変革も求められそうだ。

【情報提供のお願い】東洋経済では、アパレル業界が抱える課題を継続的に取り上げています。こちらのフォームではアパレル業界で働く方、業界を離れた方からの情報提供をお待ちしております。
真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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