クリスマスの代表的菓子「パネットーネ」の正体 イタリアでなぜこんなにも愛されているのか

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そんなに難しいというなら、やってみようじゃないの。と、私はここ数年、クリスマスの時期に何度かパネットーネ作りに挑戦している。

マウロ・モランディンさん(筆者撮影)

今年の2月、コロナ禍が始まるほんの少し前には、「パネットーネの神様」「発酵のマエストロ」とも呼ばれるマウロ・モランディンさんに、取材と称して3日間弟子入りした。マウロさんが100年以上ずっと継ぎ足して使っている母種を分けてもらって家に帰り、彼のレシピ通りに作ってみた。

読者の皆さんにも、マウロさんが教えてくれたパネットーネ作りの流れを簡単にお見せしたいと思う。

マウロ流「パネットーネの作り方」

1)パネットーネに適した天然酵母は、毎日のように粉を足しこね直してリフレッシュし、適正な温度下で管理しないと菌が死んでしまう。長いこと留守にすることもできないから、旅行やバカンスにも行けない。

型に入れる前のパネットーネ生地(筆者撮影)

2)マウロ流パネットーネ作りは2.5日かかる。1日目の朝、母種のリフレッシュから作業は始まる。3時間おきに3回繰り返し、天然酵母のパワーを最大限に持っていく。その時点ですでに夕方。その母種に粉、砂糖、バター、卵を加えて、第1の生地を仕込む。翌朝までおく。

3)2日目の朝になると、前夜の生地が3倍に膨らんでいる。その生地に、再度砂糖や卵やバター、そしてドライフルーツ類を加え、こね上げる。型に合わせて計量し、丸くまとめて型に入れ、再度発酵させる。発酵が終わると2日目も日が暮れている。

4)オーブンに入れて焼き上げる。マウロさんのオーブンは、昔、窯に薪をどんどん燃やして温度を上げた後、ゆっくり温度が下がっていく中でパンを焼き上げたような、そんな優しい火入れができるよう特別設計されたもの。私の家庭用オーブンでは、この火入れがいちばんの難関だった。

生地がしぼまないように、逆さまに吊るして冷ます(筆者撮影)

5)焼き終わったら、高く膨らんだ生地がしぼまないように、逆さまに吊るし12時間ほどおいて冷ます。

結論からいうと、これはプロに任せたほうがいい、ということがわかった。できがそんなにひどかったわけではないけれど、どうせ食べるなら「そんなにひどくない」ものではなく「すごくおいしい」ものが食べたいから、プロにお任せしたほうがいいと思ったのだ。でも実際に作ってみて、本当にプロの仕事のすごさ、苦労と努力と労力の大きさがわかった。私たちが5分で食べてしまうパネットーネの一切れに、どれだけの仕事が込められているのかがわかると、日本でパネットーネに出合ったときにも、よりありがたく、よりおいしく、堪能できるのではないだろうか。

宮本 さやか フードライター

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みやもと さやか / Sayaka Miyamoto

1996年より、イタリア・トリノ在住。イタリア人の夫と娘と暮らしつつ、ライター、コーディネーターとして日本にイタリアの食情報を発信する。一方、イタリア料理教室、日本料理教室、そしてイタリアの人々に正しい日本の食文化を知ってもらうためのフードイベントなども行っている。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」

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