高級寿司屋の大将が怖くても許される納得理由 客には「徹底的に尽くすのがいい」の落とし穴

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これが「サービスとは闘い」ということだ。勝ち負けの戦い(fight, battle)ではなく、提供者と客が相手を対等な個人として認めて、競い合うという意味での闘い(struggle)だ。

この「闘い」は、言い換えると、サービス提供者と顧客が新たな価値をともに創り上げる「価値共創」だ。サービスの本質は「価値共創」なのだ。

かつて千利休は、非日常的な緊張感を通して価値共創の場をつくり出すために、小さな茶室をつくった。茶室では、亭主である利休も、客人である大名の武将も対等。狭い茶室では、亭主と客人は1メートルと離れていない。お互いに終始ふるまいを注目し、4時間近く座り続けて懐石をともにする。高い緊張感の中で亭主と客人は主客一体となって価値を共創し、洗練の度を高めていった。このような場を通じてより経験を積み、能力を向上させ、サービスをレベルアップしていったのである。

高級サービスは客と職人の切磋琢磨を通し生まれる

このように本来サービスとは、客に努力と緊張を強いるものなのだ。しかし同時に緊張感を伴うサービス特有の居心地のよさもある。こう考えると高級サービスでは、「品質が高い」「応対がいい」は表面的なものにすぎないことがわかる。「高い金を払えば、高級サービスが受けられる」というのも誤解だ。そう考える客は、お金をもっていても店に値踏みされるだけなのだ。

現実にはあの気難しそうなすし職人も、「客に上質なすしを提供する」という目的のために、多大な努力を払っている。すし職人は、客が来る前の仕込みで仕事の95%が終わっているといわれる。

すきやばし次郎の小野二郎氏は、出演したドキュメンタリー映画でこう語っている。

「この歳(87歳)になっても、完璧と思っていないからね」

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