「バイデン政権」で警戒すべき経済リスクとは 白井元日銀審議委員が挙げる4つの注目点

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上院で承認されれば女性初の財務長官となるイエレン前FRB議長(74)(写真:ロイター)

現在、アメリカでは長期金利が低水準にあるおかげで住宅市場が好調だ。金利上昇はそこへ水を差すことになる。金利が上がれば債務者の負担も増し、債務依存度の高いシェール関連企業などの破綻が増える。

「金利上昇が経済に与える悪影響を受け、ハト派のイエレン次期財務長官やパウエルFRB議長がどう対応するかが注目される。FRBはコロナ禍の中、量的緩和政策で約3兆ドルもバランスシートを拡大した。12月15~16日のFOMC(連邦公開市場委員会)で毎月の国債などの買い入れ額を増やす可能性もある。金利が上がれば資産をどんどん買うということになり、マネタイゼーション(中央銀行の国債直接引き受け)的政策から出られなくなる恐れがある」

さらに深刻なリスクは、アメリカの貿易(経常)赤字と財政赤字という「双子の赤字」が拡大を続け、海外からの資金流入への依存度が高まる中、海外の投資家がどこまで米国債を買うのかという問題だ。「もし海外からの資金流入が細るようなことになれば、ドル安と金利上昇を加速させることになりかねない」。

ねじれ議会で債務上限問題が再燃か

一方、もし上下院の「ねじれ議会」が続くとすれば、大幅な財政赤字の拡大は避けられる見通し。「共和党は、増税した分と同規模の歳出拡大は認めるにしても、増税した分以上の歳出拡大は容認しない。増税や歳出拡大の規模もバイデン案よりかなり抑えられるだろう」と白井氏は予想する。

ねじれ議会の下での大きなリスクについて白井氏は、「連邦政府の債務上限問題の再燃」を挙げる。

2021年8月には連邦債務の法定上限が復活するため、上限の引き上げか、現在のような上限の一時停止を行わなければ、新規の国債発行ができなくなり、デフォルト(債務不履行)に陥る懸念が生じる。ねじれ議会では、野党が反対する政策を実現させないための取引として上限問題を利用することが多い。最終的には上限引き上げが行われるものの、ギリギリまで交渉が続くため、一時的な政府機関の閉鎖や金融市場の混乱を引き起こす要因となる。

「今回の議会選挙では民主党は思ったほど議席を伸ばせなかった。それは、トランプ大統領は嫌いだが、民主党の政策にも懸念を持つ有権者が多いことを示している。バイデン氏が重きを置くのは“環境と貧困”。民主党のあり方そのものを体現する政策であり、富裕層や石油・ガス業界を優遇する共和党とは根底から異なる。そこで激突するわけだから、民主党は猛烈な反発を浴びる。うまくやらないと、民主党は2022年の中間選挙で負け、4年後の大統領選でまた共和党に政権を譲ることになりかねない」

ねじれ議会の下で党派的対立が激化し、政策が停滞すれば、アメリカ社会の根深い構造問題である格差の是正は進まず、世界的な重要課題である気候変動対策でも後れをとることになる。コロナ禍での追加経済対策でもその規模をめぐる与野党の対立が続き、適時かつ十分な実施が危ぶまれる。議会がねじれようが、ねじれまいが、アメリカが大きなリスクを抱えていることに変わりはない。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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