製薬業界は薬価改定や特許切れ対応、開発パイプラインの拡充と財務戦略に注目《スタンダード&プアーズの業界展望》

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エーザイや武田薬品におけるバイオベンチャーの大型買収や、アステラス製薬(格付けなし)が現在、米医薬品会社に対して行っている敵対的TOBも、将来キャッシュフローの寄与は、特許切れによる収益マイナス影響を補うには足りず、事業プロフィールに与える影響は短期的には限定的、とスタンダード&プアーズは考えている。第一三共(格付けなし)による後発薬メーカー・ランバクシー社(インド・格付けなし)の買収は、創薬ベンチャー企業などの買収と違って、世界の大手新薬メーカーを見渡しても画期的な事業戦略である。

しかし、スタンダード&プアーズは、後発薬の産業リスクプロフィールは他の多くの業界に比べ平均的であるものの、先発品の製薬メーカーに比べると産業リスクは高いとみている。新薬メーカーと訴訟で争うリスクを抱えるうえ、コモディティ化が進んでいるため、参入障壁が比較的低く、コスト競争が激しい、という事業特性を持つためである。多くの先進国が後発薬の使用促進を医療政策に掲げていることから、市場自体の成長性は高いものの、特許で守られていない安価な医薬品を販売するため、高い研究開発リスクは負わないが、収益率は新薬メーカーより大幅に低い。

また、後発薬メーカーは、買収による規模拡大の意欲が強いため、有利子負債への依存度が高いなど、財務体質は一般的に新薬メーカーに比べ弱い。スタンダード&プアーズがグローバルで格付けを付与している後発薬メーカーの格付け水準は、新薬メーカーの格付け水準よりもおおむね低い。

既存薬の伸び、買収、厚い手元流動性が、武田薬品の信用力を支える

国内最大手の武田薬品工業(AA/安定的/A−1+)でも、09年のプレバシド(消化性潰瘍治療剤)から12年のブロプレス(高血圧治療剤)まで、大型国際商品の海外での特許切れ問題に直面している。なかでもアクトス(糖尿病治療剤)の特許が11年に米国で切れる影響は大きく、後継薬の上市も遅れているため収益減少は避けられない。しかし、武田薬品は既存薬の適応症の拡大(効能追加)などによる売り上げの伸び、近年上市された新薬の売り上げ拡大が見込まれるほか、これまでの買収、他社製品の導入、研究開発体制の見直しによって事業基盤が強化されつつある。

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