「裏社会でも覚醒剤中毒は嫌われる」意外な理由 強迫観念や幻視で錯乱状態になる様子は狂気

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ものすごくシンプルな理由は、生産地から越える「国境の数」である。そこに国境の難易度が加わる。

ジャマイカはマリファナの一大生産国だ(KKulikov/PIXTA)

たとえばジャマイカから国外に持ち出す場合にはそれほど問題はないのだが(国外に持ち出す分にはあまりうるさく言われないのはどこの国でも一緒)、次の国へと持ち込む際にリスクが高まる。

特に陸路より海路や空路を使う場合には、摘発リスクが格段に高くなってしまう。ジャマイカの場合だと、アメリカの各都市、メキシコ、カナダ、欧州などへと運ばれていく。

船や飛行機で荷物に紛れ込ませて運ぶこともあれば、関係者を買収して運ぶこともある。運ぶ際には警察や税関、麻薬取り締まりの専門部署などによる摘発もあるので、流通経路にどれだけの数の国があるのかでリスクが高くなっていくということなのだ。

そうした監視の目をすり抜けるために、運び屋のような裏の流通業者はどのような工夫をしているのだろうか。

輸送量の100%が届くとは考えていない

「やり方はいろいろとあるけど運ぶ数を増やして帳尻をあわせる」

これは日本のドラッグの運び屋に聞いたことなのだが、密輸する際には輸送量の100%が届くとは最初から考えていないそうだ。むしろ半分でも届けば御の字と思っているらしい。つまり運んでいる段階で、リスクの高い国境越えでは失敗するのが前提になっているということなのだ。

結果として、「捨て分」で失った利益を補塡するためにドラッグの値段は変動相場制にならざるをえない。越境する国の数が増えれば運び屋の代金、摘発された損失分が加算されていくので販売額も必然的に高くなってしまうのだ。

ちなみに元税関職員に「どうやって麻薬を見つけ出すの?」と質問したことがあるのだが、その際に返ってきた答えは「勘!」ということだった。意外かもしれないが、人間の隠蔽した部分の違和感を発見できるのは、経験値から高めた勘でしかなかったりするのが現実なのだ。

もちろん昨今では優秀な機械類も導入されているが、水際ではいまだに人間臭い部分が力を発揮している。そう思うと麻薬の相場からもそこに関わる人間たちの苦労が見えてくる……かもしれない。

有名人が麻薬の所持や使用で逮捕されるニュース自体は衝撃的なものだが、初犯であれば、おそらくは執行猶予がついて、数カ月もすれば釈放されるだろう。日本は一回目の犯罪についてはこのような対応をとるケースが多い。ところが有名人に限らず、薬物犯罪は刑罰よりも社会的な制裁が大きい。簡単に言ってしまえば、世間の見る目が大きく変わるのだ。

「あの人はまだ禊が済んでいない」とか「まだ社会復帰は早いのでは?」といった同調圧力が世間からかかり続けた挙句、一度こびりついたイメージはいつまでたっても消えないのだ。日本人は薬物、特に覚醒剤に対して「強烈な嫌悪感」があり、使用者を拒絶する傾向が強い。

どうして薬物使用者は嫌われるのか。

そこには薬物の恐ろしさがあると思う。特に敬遠されるのが覚醒剤である。覚醒剤とは、アンフェタミンやメタンフェタミンなどの脳の中枢に強い興奮作用をもたらす合成薬物のことである。

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