首都圏の通勤電車に見る「上手な線路の使い方」 限られたインフラで増発や遅延防止の取り組み

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交互発着は列車の渋滞を防いでスムーズに運行するための方法の1つだが、抜本的に列車本数を増やす方法として「複々線」がある。上り・下りともに、急行などの優等列車が走る線路(急行線)と各駅停車用の線路(緩行線)の2線にして線路容量を増やす方法だ。

小田急通勤準急の運行経路。複々線の急行線と緩行線を車線変更しながら走る(筆者作図を基に編集部加工・作成、線路図は簡略化)

首都圏の鉄道の複々線は、基本的に優等列車は急行線、各駅停車は緩行線と走る線路をはっきり分けている。だが、2018年に全区間が完成した小田急線の複々線の使い方は高度だ。朝ラッシュ時に走る東京メトロ千代田線直通の「通勤準急」は、緩行線を走ったり急行線を走ったりと、頻繁に「車線変更」をする列車なのだ。

まず、複々線が始まる登戸駅では緩行線に入り、急行線の快速急行と同時に発車する。通勤準急はややゆっくりと走り、3駅を通過して成城学園前駅の手前で急行線へ車線変更。同駅では先に緩行線に入っている各停と接続する。その各停とほぼ同時に発車すると、今度は3つ目の経堂駅の手前で再び緩行線へ。同駅の上り緩行線は2線あり、先に緩行線の片側(4番ホーム)に停まっている千代田線直通の各停と接続する。同駅発車後はそのまま緩行線を走って数駅を通過し、代々木上原から千代田線に乗り入れる。

線路の空きを有効に使っているのはもちろん、千代田線の代々木上原始発電車の発車が多少遅れた場合も、新宿方面へ向かう急行線の列車に遅れが波及するのをある程度回避できている。このほか、小田急は日中の千代田線直通準急も緩行線を走っている。日中の複々線区間の各停は10分間隔なので、空いた線路を有効活用しているといえる。

輸送力増強策は無駄にならない

ほかの路線でも同様に、比較的停車駅の多い急行や快速は緩行線に移し、空いた急行線に有料着席通勤列車を走らせるといった活用も可能だろう。

大手私鉄最長の複々線区間を誇る東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)でも可能だろう。緩行線に優等列車を走らせれば、急行線にホームがないため通過駅であるものの利用者が多い竹ノ塚(隣接する急行停車駅の西新井よりも1日平均で約6000人多い)も急行などの停車駅にできる。朝の各停を何本か急行に置き換えるのもありだろう。草加駅の配線を改良すれば緩行線内で各停の追い抜きもできそうだ。

コロナ禍によって通勤利用者は減っており、これまで輸送力増強が最大の課題だった都市部の鉄道の状況も、今後は大きく変わってくるかもしれない。だが、列車本数を増やすことができれば、昨今流行りの「有料着席列車」を大幅に増やして着席通勤を主流とすることもでき、鉄道会社側の増収にもつながる。コロナ禍でこれまでの輸送力増強策が無駄になるかといえば、決してそんなことはないだろう。

北村 幸太郎 鉄道ジャーナリスト

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きたむら こうたろう / Koutaro Kitamura

1989年東京生まれ。2008年昭和鉄道高等学校運輸科卒業、2012年日本大学理工学部社会交通工学科マネジメントコース卒業。乗り鉄、ダイヤ鉄。学生時代は株式会社ライトレールにインターン生として同社の阿部等社長のもと、同社主催の「交通ビジネス塾」運営などに参加。

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